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Business & Economic Review 2003年08月号

【FORECAST】
2003~2004年度改訂見通し-負の遺産の処理から産業創造へ

2003年07月25日 調査部 経済研究センター


要約

  1. わが国経済は、輸出の増勢鈍化を背景に、2003 年入り後は足踏み状態で推移している。加えて、アメリカの景気回復の遅れ、SARS のマイナス作用の残存など、輸出の先行き不透明感も払拭出来ず。一方、国内民需は、力強さは感じられないものの、設備投資を中心に予想以上の底堅さが持続している。

  2. 海外経済の動きから判断すると、輸出による景気牽引力は当面はあまり期待出来ない。アメリカ経済は、減税効果や企業部門の回復を背景に、秋口にかけ持ち直しが期待出来るものの、雇用環境の低迷持続、家計負債の積み上がり、住宅価格上昇のピークアウトなどにより、景気回復ペースは緩やかにとどまる見通しである。ユーロ圏経済は、通貨高などにより輸出環境が悪化していることから、当面は低成長を続ける見通しである。東アジア経済でも、輸出の増勢鈍化に加え、SARS 感染拡大に伴うマイナス影響が残ることから、本格回復への復帰には時間がかかる公算が大きい。

  3. 足元の物価は下落幅が縮小傾向にあるものの、大幅な需給ギャップの残存や安価な海外製品流入の影響が働くことから、物価下落傾向は長期化する見通しである。こうしたデフレ傾向の持続により、「収益・所得増→設備・消費増」という景気回復メカニズムが働きにくい状況が続き、景気回復の抑制要因として作用する。
    もっとも、1998年、2001年のような、景気が急激に悪化する事態は回避されると見込まれる。企業サイドでは、ストック調整圧力が大きく低下していること、利益率の引き上げを通じて増益基調を維持するとみられることから、設備投資が急減する懸念は小さい。また、個人部門も、社会保険料負担増などもあって所得環境の悪化は続くものの、物価下落による実質資産価値増による消費押し上げ効果や、デジタル家電などの新製品による消費意欲の喚起が、個人消費の下支え役として期待出来る。

  4. 以上を勘案してわが国経済を展望すると、当面は、外需の牽引力低下を主因に足踏み傾向が持続する見通しである。その後、海外経済に大きなショックが起きないことを前提にすれば、企業収益の回復を起点として、設備投資・個人消費の堅調に支えられるかたちで、2004年度に向けて、緩やかな持ち直し傾向をたどるシナリオが展望出来る。

  5. 日本企業は、ここ数年来、経済環境悪化への対応を着実に進めており、前向き姿勢に転じていくための環境が徐々に整いつつある。すなわち、収益体質の大幅改善により売上高が減少する状況下でも増益が可能になっているだけでなく、一部産業ではわが国独自の強みを生かすべく、国内での生産を維持・強化する兆しもある。
    もっとも、こうした収益体質の強化は依然として道半ばであり、制度上の制約からも、企業部門全体の経営姿勢が前向きに転じにくい環境は持続するものと予想される。こうした事態を打開するためにも、産業再生機構を活用した企業再生の本格化や、構造改革特区を足がかりとした規制改革の推進が今後の大きなカギとなろう。

  6. こうした点を勘案すれば、政策面での対応も、「負の遺産」処理の完了に向けた強力な企業再生支援策を講じると同時に、構造改革の軸足を「負の遺産」の処理から「産業創造」へと移すべき段階に差し掛かっている。同時に、デフレ経済が長期化する公算が大きいことを考えると、将来不安を根本的に取り除くために、社会保障制度をはじめ各種制度インフラを、「デフレ下でも持続可能なシステム」へと設計し直すことが喫緊の課題である。マクロ政策運営面では、景気が依然として下振れしやすい状況にあることから、基本的には中立スタンスを維持し、景気後退懸念が強まる場合には、拡張的スタンスを強めることも必要である。
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