Business & Economic Review 2003年07月号
【STUDIES】
アメリカ・モノラインの興亡-わが国クレジット・カード・ビジネスへの示唆
2003年06月25日 調査部 鈴木大洋
要約
- 1990年代半ば以降、モノラインは、アメリカのクレジット・カード業界において、収益性、成長性の両面で牽引役となってきた。しかし、2000年代に入ると、モノライン各社ごとにばらつきはあるものの、総じて90年代後半にみられた業績面での勢いに陰りが生じている。
- モノラインの業績の伸びが鈍化した理由は、a.ローン返済の延滞、自己破産などの増加により、各社の貸し倒れ損失が急増した、b.個人与信リスクの高まりを背景に与信基準を厳格化し、既存枠を削減すると同時に新規与信を抑制した、c.景気の悪化により、家計のローン・ニーズが低下した、の3点である。
- このような状況を受けて、モノラインのビジネス・モデルについての見直しが始まっている。サブプライム・ポートフォリオ重視からサブプライムとプライムのバランスの確保へ、またモノラインからマルチラインへと商品の多角化、という二つの動きが強まっている。
- マーケティングにおけるモノラインの大きな特徴は、カード事業に顧客セグメントという発想を導入したことである。モノラインは、顧客の信用力に応じて低水準の金利を設定することを通じて、商業銀行の顧客基盤を切り崩し、急速な成長を遂げていった。その後、モノラインのなかには、マーケティング戦略を転換し、信用力の劣る顧客に的を絞り、マーケット開拓を推進するものが現れた。
- 顧客争奪戦が激化すると、新規の顧客を開拓するよりも、既存の顧客を維持することが収益性の確保につながるとの認識が定着していった。顧客引き留めのための代表的な商品政策が、a.機能差別化型カード(顧客ニーズにカード機能面できめ細かく応える)、b.affinity カード(個人の組織、団体への帰属意識をカードに表象する)、の二つであった。
- モノラインの業績は、成長性と収益性の好循環過程に支えられてきた。急成長が収益性を高めるプロセスは、a.金利収入がローン残高の伸びに強く連動する、b.ローン残高の持続的増加により貸し倒れ損失率を低水準に抑制する、c.大量のクレジット・カード債権を証券化することにより、ハイリスク・ハイリターン投資を行う、d.ポートフォリオの急拡大によって規模の利益を追求する、の4点に集約出来る。
- わが国もいずれバランス・トランスファー時代を迎える。わが国カード会社の備えとしては、a.自社顧客をセグメントして、金利などサービス面でカスタマイズを図る、b.自社にとって、カード事業がコアコンピタンスであるかどうかに応じて、事業の継続あるいは売却を早期に決定する、c.一時的な優遇金利の蔓延を阻止する、の3点が指摘出来る。
- わが国社会においては、今後、個人に対するクレジット・リスクがさらに高まる状況にある。わが国カード会社は、クレジット・リスク・モデルをさらに高度化するとともに、リスク分散および収益の安定化など基本的なリスク対策を講じる必要がある。具体的には、a.サブプライムとプライムのバランスを維持する、b.商品ラインをマルチ化し、リスク分散を図る、c.サブプライム向けのリスク抑制機能を盛り込んだ商品開発に取り組む、などの事業運営が望まれる。
- クレジット・カード事業を巡る経営環境を展望すると、バランス・トランスファーおよびポートフォリオの買収が増加するなど、システム面での機動的な対応が不可欠となる。とりわけ、競争の激しいプライム層向けマーケットでは、顧客セグメントが戦略的な重要性をもつ。機動的な顧客セグメントに対応するシステム構築という視点が不可欠となろう。
- クレジット・カード債権の場合、システム面、リスク管理面の両面から、規模の経済が作用する。したがって、ポートフォリオの買収やバランス・トランスファーがいったん始まると、マーケットの寡占化が急速に進展する。その際、資金調達がカード会社にとっての制約要因となる可能性がある。わが国では、当面、資金需給の緩和が持続することが予想されるとしても、その時間的なゆとりに安住することなく、カード債権の証券化の検討など、資金調達手段の多様化に向けたインフラ整備への取り組みが必要となろう。