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Business & Economic Review 2003年07月号

【STUDIES】
イギリス大不況下の世界的デフレについて-現在の日本へのインプリケーション

2003年06月25日 調査部 経済研究センター 益田郁夫


要約

  1. イギリスは、1873年から1896年まで、物価下落をともなう深刻な不況に見舞われた。デフレ発生の原因については、a.貨幣面を重視する説、具体的には金本位制下で金需給が逼迫したことによるものとする説、b.実物経済面の要因を重視する説、c.海外からの安価な製品の流入によるものとする経済グローバル化説、がある。

  2. 当時、金生産の停滞などを背景に金需給が逼迫し、金本位制をとる国にとってベースマネーの制約要因となった。これが、デフレを引き起こしたとする説が貨幣面重視説である。金需給と物価の転換点がおおむね整合的であること、また、大不況期にはベースマネーが減少傾向で推移したことから、金需給説の説明力は高いようにみえる。しかし、大不況からの脱却にあたっては、貨幣量の動きと物価の動きが整合的でなく、むしろ、「金の流入増加→低金利の長期化→金利弾力性の高い投資需要の喚起→大不況脱出」というプロセスがみられた。

  3. 実物経済重視説は、実物経済面での諸要因が経済の悪化を招き、需給ギャップの拡大を通じてデフレの原因となったとする説である。技術革新テンポの鈍化や製品の国際競争力の低下を背景とする投資機会の減少、経済の構造変化に対して賃金の下方硬直性などのために調整が遅れたこと、などが考えられる。これは、いわばイギリス特有のデフレ要因と位置付けることが出来る。

  4. 経済グローバル化説は、新興農業国、新興工業国の勃興により安価な商品が大量に輸入されるようになり、それがイギリスなど先進国の物価下落をもたらしたとする説である。これは、金需給要因とともに、当時のグローバルなデフレ現象の背景の一つと位置付けられる。

  5. イギリスの大不況からの脱出過程をみると、自動車や電機産業など新たな成長産業の芽が出始めていたことなどから、実物経済面の要因もデフレ解消に貢献したと推測出来る。このことは、大不況期のデフレの発生には、金需給要因に加え、実物経済面の要因も影響を及ぼしたことを示唆していると考えられる。実物経済面の要因と貨幣面の要因をともに織り込んだ物価変動理論として、ウィクセルの自然利子率説がある。ウィクセルは、実物経済面から決まる自然利子率に比べ、貨幣面の要因で決まる市場利子率が金生産の低迷などにより高止まりしたことに、当時のデフレの原因を求めた。

  6. 当時のデフレ脱却の前後に貨幣量が増えていることから、わが国においても貨幣供給を増やすべきとの結論を導く議論がある。しかし、イギリスの経験は、貨幣数量説的な解釈よりも、金の需給緩和に伴う金利の低下によって有効需要が創出され、物価上昇につながったとみる方が適当である。これが現在のわが国にも当てはまるとすれば、金利のゼロ制約下にあるわが国では、金融政策によるデフレ脱却は困難であることになる。したがって、イギリスの経験から量的緩和政策の有効性を論じることは妥当とはいえない。金利低下メカニズムに依存しない非伝統的政策の導入の是非については、その波及経路を個別的具体的に検討し、かつ、メリット、デメリットを十分に考察したうえで、個別手段ごとに判断していく必要がある。

  7. 経済のグローバル化が急速に進展するなか、わが国が新たな投資機会を見いだしにくい状況が続くことはある程度やむを得ない。そのような経済環境の下では、対外的には、貿易、投資などの国際ルールの整備と運用の適正化を通じ、中国を始めとする新興工業国との取引によって、わが国にもより大きなメリットが生まれるようにしていくことが必要である。また、対内的には、民間に新たなビジネスチャンスを提供し、それによって企業の収益性が高まるよう、規制緩和を積極的に進めていくことが重要である。
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