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Business & Economic Review 2003年07月号

【STUDIES】
コンテンツ流通促進に向けた制作会社と放送局の取引関係の在り方

2003年06月25日 調査部 メディア研究センター 島田浩志


要約

  1. わが国では放送コンテンツの二次利用が遅れているといわれるが、その要因は放送業界が築き上げてきた強固な地上波ネットワークの存在そのものにあったと考えられる。地上波キー局を中心とする充実した地上波ネットワークのなかでは、徹底した新作主義の番組編成が行われてきたため、地上波放送局にとってコンテンツ流通の促進は差し迫った問題ではなかったのである。しかしここにきて、地上波ネットワークを取り巻く環境も様変わりしつつある。地上波キー局各社は2000年12月にBSデジタル放送へ参入したのを機に、コンテンツ流通の必要性を感じ始めている。さらには2003年末から開始予定である地上波デジタル放送は、従来の地上波ネットワークの在り方に変化を迫ることは間違いなく、ローカル局もキー局以外のコンテンツ供給先が必要になってくると予想される。したがって、それまでコンテンツ流通に消極的であった地上波放送局も、今後は放送コンテンツの二次利用に積極的に対応していかざるを得ないと考えられる。

  2. わが国の放送コンテンツ制作では制作会社が極めて重要な役割を果たしているが、完成したコンテンツの著作権は放送局が所有するケースが多い。このように制作の実態と著作権の帰属が乖離している状況には、制作会社と放送局との間の力関係が反映されていると考えられる。わが国では放送コンテンツの二次利用が遅れていることもあって、制作会社は著作権の帰属の在り方に不満を抱きながらも放送局との取引の継続を優先してきたといえる。一方、著作権を所有する放送局も、放送コンテンツの二次利用は業務負担に比べて得られる利益が少ない状況にあったため、積極的には取り組んでこなかった。しかし、多メディア・多チャンネル化の進展とともに、わが国でもこれまで遅れていた放送コンテンツの二次利用を求める声も本格化しつつある。それとともに、制作会社も著作権の重要性を認識し始め、放送局に対して著作権の正当な保有を要求するようになってきている。放送コンテンツの二次利用を促進させるためには、従来の制作会社と放送局の取引慣行を見直し、制作会社がコンテンツの二次利用を積極的に展開出来るような新しい契約システムを確立していく必要がある。

  3. 制作会社と放送局との契約において、両者の主張が最も対立しているのが著作権などの帰属についてである。なかでも著作権帰属の根拠となる「発意と責任」の捉え方に関して、グレーゾーンの多いことが著作権の帰属を複雑にしている。著作権の帰属問題を解決するには、そうしたグレーゾーンを出来る限り排除すべく、制作会社と放送局が納得出来るような一定の基準を早急に策定する必要がある。また、著作権が第三者に譲渡可能であることも帰属の判断を複雑にしている。契約書のなかでコンテンツの著作権が放送局に帰属する条項が加えてあると、著作権は制作会社から放送局に譲渡されたと解釈することが可能であるからである。このような状況を改善するには、コンテンツの制作に関する委託代金と著作権の譲渡代金を切り離して契約書に明示するように改めていくべきである。それによって、著作権の譲渡という概念が契約書のなかで明確になるだけでなく、著作権の譲渡金額の客観的な基準が形成されていくことにもなると考えられる。このような新たな契約システムを確立していくには、当事者同士の努力はもちろんのこと、行政も制作会社と放送局が対等な立場で契約が行えるように、「独占禁止法の指針」をより具体的なものに改定するなど、その監視機能を強化していくことが求められる。

  4. 放送コンテンツの円滑な流通を促進するには、制作会社自身も従来の取引慣行を改め、制作したコンテンツを主体的に活用していけるような体制を構築していく必要がある。そのためには、従来のように制作費のすべてを放送局に依存するのではなく、自ら制作費の一部を負担することによって、コンテンツの著作権を確実に手にし、権利ビジネスによって収益を上げていくビジネスモデルに転換を図っていくべきである。ただし、わが国の制作会社は圧倒的に中小企業が多いことから、制作費の一部負担が制作会社の経営を大きく圧迫する危険性もある。そのため、イギリスにおけるBBCと制作会社の契約システムなどを参考にしながら、制作会社の実情に適した契約システムを放送局とともに考えていく必要がある。また、制作会社が主体的に二次利用を展開出来るようにするには、他の制作会社と連携を図りながら、コンテンツの二次利用管理・販売体制を早期に確立すると同時に、投資ファンドのような新しい資金調達手法の開発にも、積極的に取り組んでいくことが期待される。

  5. 放送コンテンツの流通を促進するためには、下記のような取り組みも必要であり、行政による積極的な支援が期待される。

    a.俳優や脚本家などとの権利処理問題
    原作者や俳優や脚本家等の原著作者との権利処理が煩雑であるため、各分野の著作権管理団体等が中心となって、統一的な権利の許諾ルールを早急に策定するとともに、権利の集中管理体制を構築する必要がある。

    b.デジタル・ネットワーク技術を用いた効率的な著作権管理システムの構築
    第三者が迅速に放送コンテンツに関する流通情報にアクセス出来るようなシステムを構築する必要がある。放送局や制作会社、権利者団体はコンテンツ情報のデータ-ベースの構築や情報提供に取り組んでいるケースもあるが、事業者ごとに情報の内容やフォーマットが異なっているため、インターネットなどを用いた統一的なデータ-ベースの構築を目指す必要がある。

    c.違法コピーへの対応策
    デジタル情報はコピーしても劣化しないだけでなく、インターネットなどのネットワークを通じて違法に配信される可能性が高いため、権利情報の管理や不正利用を防止する技術的手段の開発を強化する必要がある。

    しかしながら、放送コンテンツの二次利用を促進するうえで、最も優先順位の高い課題は、制作会社と放送局の取引関係の見直しにある。コンテンツ制作の出発点ともいえる制作会社と放送局との取引関係が改善すれば、制作会社や放送局は主体的にコンテンツ流通に取り組むことが出来るようになる。それによって、コンテンツが動き始めれば、その他の課題についても本格的な取り組みが行われるようになるであろう。
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