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Sohatsu Eyes

RPS法の行方

2003年11月11日 木村 容子


今年4月にRPS法※1が施行されたことにより、電気事業者は、販売する電力の一定割合を、風力や太陽光、バイオマスなど再生可能エネルギーで賄うように義務付けられました。

電気事業者が義務量を達成すると、2010年には122億kWh、すなわち日本の総電力消費量の1.35%が再生可能エネルギーによる電力となります。

「1.35%」という導入率をどう感じるでしょうか。この数字は、再生可能エネルギーが現在の電力系統に影響を与えない範囲を想定し、設定されているようです。しかし、RPS法の目的が、“石油依存型のエネルギー構造を見直し、エネルギーセキュリティの確保を図る”ことにあることを考えると、目標として掲げるには、極めて低い数字と言えるでしょう。

再生可能エネルギーの導入には、日本に先行して政策を打ち出している欧州の例が参考になります。例えばドイツでは、2010年には、全電力量のうち実に10.3%を再生可能エネルギーで賄うという目標を置いています。また、この目標を確実に達成するため、電力事業者に対し、再生可能エネルギーによる電力を固定価格で買い取ることを義務付けました。政府が再生可能エネルギー導入への積極性を政策に示したことで、産業界国内の再生可能エネルギー産業、特に風力発電産業を世界的な規模に成長させることにもつながっています。

また英国は、電力事業者に、電力供給量の10%を再生可能エネルギーとすることを義務付けている他、再生可能エネルギーの環境負荷価値を「グリーン電力証書」として取引することを認めています。このグリーン電力証書は、将来的に、CO2の削減量に換算することで、英国国内の温室効果ガス排出量取引※2市場での販売も認められます。英国政府は、再生可能エネルギーの導入に、市場機能を最大限に活用することを明確にしたと言えるでしょう。

このような眼で、上に挙げたRPS法を見ると、政府の考える方向性がいま一つ明確に示されていないことを感じます。ビジョンが明確でない政策は、企業や国民の判断を鈍らせ、早期での対応がとれない「空白の時間」を生むことになります。今、考えるべきは、日本のエネルギーセキュリティに対する具体的なビジョンと「強気」な政策なのではないでしょうか。


※1 RPS法:「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」の通称。RPSは、Renewable Portfolio Standardの略。ちなみに、2003年2月現在の再生可能エネルギーの導入率は、0.88%でした。

※2 温室効果ガス排出量取引制度:企業に温室効果ガスの排出削減目標を持たせ、目標以上に削減を達成した企業は、削減量を市場に販売、目標の達成が厳しい企業は、市場から削減量を購入できる制度。

現在、創発戦略センターでは、家庭用燃料電池のネットワーク利用をテーマにDESSコンソーシアムを立ち上げています。単に燃料電池ビジネスの検討というだけでなく、上記のようなエネルギーセキュリティ確保、さらに、将来の水素エネルギー社会の可能性という時代背景を見据えた活動を目指しています。

■DESSコンソーシアム
http://www.jri.co.jp/thinktank/sohatsu/theme/energy/index.html
 
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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