Business & Economic Review 2002年01月号
【REPORT】
ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の新展開-組織改革の観点からの三つの提案
2001年12月25日 研究事業本部 副主任研究員 山中俊之
要約
- 1980年代半ばにイギリス、ニュージーランドなどで民間企業の経営手法をできる限り公共部門にも取り入れようとするニュー・パブリック・マネジメント(以下、NPM)が始まった。その背景には、a.70年代の財政の逼迫、b.政府自体の非効率性(政府の失敗)への批判の高まり、c.社会的問題に対し明確に意思表示する国民の増加、d.卓越した政治指導者の存在、などがある。 NPM の導入によって、公共部門が効率化し、国民・住民の福祉が向上することが期待されたのである。 NPM の基本的概念は、政策立案部門(Plan)と執行部門(Do)を分離して執行部門に大幅な権限を委譲する一方、執行部門の業績を評価(See)するマネジメントサイクルにある。NPM の具体的な手法としては、PFI などを含んだ広義の民営化やエージェンシー制など組織の変革が挙げられる。
- わが国でも、民営化や独立行政法人の設立などにおいてNPMの考えが取り入れられている。しかし、マネジメントサイクルについては取り組みが遅れており、NPM は部分的な導入にとどまっていると判断される。これは、行政の組織自体にマネジメントサイクルを生み出す仕組みが構築されていないことが、大きな要因である。 わが国のNPM 導入の課題を組織の観点から指摘すると、a.政策立案部門と執行部門の分離が明確でなく、執行部門への権限委譲が進んでいない、b.執行部門の業績が組織ごとに評価される仕組みが整っていないことなどが挙げられる。さらに、これらの課題が解決された場合、執行部門に権限が大きく委譲されたことと関連して、c.人事制度の改革やd.コンプライアンスの確保などの新たな課題が生じる。
- NPM 型の行政組織の海外先行事例としては、イギリスのエージェンシー制やニュージーランドの首席行政官(CE)制などがある。国内では、権限の大幅な委譲を含む組織改革を実行した福島県三春町の例が特筆される。 また、組織構造からみると、重層的なピラミッド型組織よりもフラットなネットワーク型組織の方が、職員の創意工夫や自由な発想を生み出しやすい。
- NPM の観点からわが国行政の組織改革に関して以下の3点を提案したい。 第1に、業績志向型の組織の構築である。執行部門の長の評価は、あらかじめ政策立案部門と合意した業績目標の達成度によって行われる仕組みを構築する。首長や外部専門家などで構成されるトップマネジメント会議は、最高意思決定機関として目標の設定を行う。その下部組織である政策立案部署には、行政をめぐる環境変化に柔軟に対応するため、外部の専門家も受け入れるとともに、ネットワーク型の組織を構築することによって自由な議論ができる条件を整える。
第2に、業績志向型組織における人材育成の仕組みとしての「新キャリアシステム」の導入である。具体的には、入庁後10年程度の期間をかけて、マネジメント能力や発想力・構想力のある人材を育成・選別する。選別された幹部候補者は、さらに幅広い経験を積みながら、その適性に応じて政策立案部署の職員や執行部門の長に就任する。
第3に、コンプライアンス志向の組織の構築である。具体的には、コンプライアンスに関連する評価指標の導入やコンプライアンス確保のための360度評価の導入、内部監査の活用などである。