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Business & Economic Review 2002年01月号

【OPINION】
構造改革を乗り越えて地域を活性化させるには-地域が自立性のある産業集積と地方中核都市をつくれ

2001年12月25日 調査部 金融・財政研究センター 菊森淳文


構造改革の実行に伴い、地方行財政の自立と効率化が求められている。新しい年を迎え、わが国の各地域は、これまでの地域経営の在り方を見直し、自立性のある産業集積と地方中核都市づくりに着手すべき時である。
  1. 地域経営の現状と問題点

    2001年6月26日に「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(いわゆる「骨太の方針」)が閣議決定され、構造改革が進められている。 その第4章「個性ある地方の競争-自立した国・地方関係の確立-」には、地方 が個性と自立の精神を持って潜在力を自由に発揮できるようにするために、自治体の行財政基盤の拡充と自立能力の向上を図ることが不可欠であることが謳われている。地方の財政面に関しては、公共事業を含む歳出削減、地方交付税を含めた国と地方の関係、受益と負担の関係の見直しが行われようとしている。地方の行財政が自立するのに伴い、これまで国からの財政移転や大企業の進出によってほぼ一様に支えられてきた地方の地域間競争が激化する。このため、構造改革によって顕著となる地方の財政制約の下でも、経済を活性化させるための施策が新たに必要になる。
    一般的に、地域における行財政等の施策により地域を運営することを「地域経営」と呼ぶ。本来「経営」とは、「一定の目的のために企業・組織等を運営すること」であるが、地域にも企業経営的発想でのマネジメントが求められる時代が到来している。「経営・マネジメント」には、戦略、内部管理、外部マネジメントの三つの機能があり、地域経営についてもこれらの機能があり得る。「経営」は単なる「管理」ではなく、より広く、戦略や外部マネジメントも含む概念であるから、地域経営も同様に、行政等による地域の管理にとどまらない。その意味では、地域経営は、企業経営の手法をできるだけ地域や行政に取り入れようとする「ニュー・パブリック・マネジメント(New Public Management )」の一つである。なお、住民・企業・NPO 等と並んで地域経営の重要な当事者で ある行政の経営を「行政経営」という。
    現在、地域経営が抱えている問題は、国の政策が従来の「国土の均衡ある発展」を目指す政策から、地域の自立を促進する政策へとパラダイム・シフトする中で、地域経営を支える主体がこれに対応仕切れていないことである。これを具体的にみると、

    第1に、地域経営を行う体制や行政過程の問題がある。地域経営に当たっては 一定の目標を定めて基本方針を策定し、これに必要な施策を効率的に行うことが必要であるにもかかわらず、重要な主体である行政の経営が十分に機能していない。例えば、行政経営を住民等に納得させるためには、一定の目標を定め、その成果を評価する制度が必要である。そして、評価項目の指標化(客観化)と、その適切な成果(アウトカム、outcome )の評価が必要となるし、さらにその成果を踏まえて基本計画の具体化や次期予算へのリンクが行われることが必要である。しかし、現状では、多くの都道府県や市町村で評価制度を取り入れてはいるものの、その対象が事務事業や施策にとどまっているところが多い。このため、基本計画との整合性が必ずしも取れているとはいえず、また、予算へのリンクも殆ど行われていない。

    第2に、地域経営の内容・施策の問題がある。地域経営が目標とすべき地域の活性化(経済の活性化・持続的成長)のための施策が、多分に国の施策や大企業の誘致等に依存している。地域としての自律的な政策立案が十分になされていない。現状、どの地域でも最低限(ナショナル・ミニマム)の公共サービスを受けられる体制は出来ているが、その次のステップとして地域間競争(住民が満足できる生活の保障等)への対応が必要となる。ティブー(C.M.Tiebout )が言うように、分権的政治システムにおいて地方団体が多数存在する場合には、各地方団体が独自に税と支出の組み合わせを提示すると、住民は自分の選好に最も合っ た地域に移り住むのである。したがって、地域間競争のある環境の下では、各地域が競争力を付けることが必要になる。ある地域が他の地域よりも競争力を高めるには、経済を活性化させ、地域総生産、住民一人当たりの所得等を持続的に高めること、また、環境・教育等公共サービスを充実させ住みやすい地域をつくることが重要である。しかしながら、現状では大都市部を除き経済面で有効な地域活性化策が打たれているとはいいがたい。

    第3に、地域経営の内容・施策の問題がある。地域経営が目標とすべき地域の活性化(経済の活性化・持続的成長)のための施策が、多分に国の施策や大企業の誘致等に依存している。地域としての自律的な政策立案が十分になされていない。現状、どの地域でも最低限(ナショナル・ミニマム)の公共サービスを受けられる体制は出来ているが、その次のステップとして地域間競争(住民が満足できる生活の保障等)への対応が必要となる。ティブー(C.M.Tiebout )が言うように、分権的政治システムにおいて地方団体が多数存在する場合には、各地方団体が独自に税と支出の組み合わせを提示すると、住民は自分の選好に最も合っ た地域に移り住むのである。したがって、地域間競争のある環境の下では、各地域が競争力を付けることが必要になる。ある地域が他の地域よりも競争力を高めるには、経済を活性化させ、地域総生産、住民一人当たりの所得等を持続的に高めること、また、環境・教育等公共サービスを充実させ住みやすい地域をつくることが重要である。しかしながら、現状では大都市部を除き経済面で有効な地域活性化策が打たれているとはいいがたい。

  2. アメリカ・イタリアにみる地域経営の成功例

    わが国の地域経営の在り方を考えるに当たり、ここでアメリカとイタリアにおける地域活性化策の成功例をみておきたい。
    まず、アメリカでの地域活性化の成功事例として、a.エンパワーメント・ゾーンの指定、b.地域における創業・ベンチャー企業の育成、c.民間のノウハウを活用した広域的地域計画があげられる。これを具体的にみると次の通りである。

    a.エンパワーメント・ゾーンの指定
    エンパワーメント・ゾーンの指定は、アメリカの大統領と中小企業庁によって推進されて来た政策で、経済的な潜在力に乏しいハブゾーン(hub zone)の活性化を目指して、核となる都市に投資を集中させ、核都市と周 辺地域とのネットワークを強化して地域振興を図るものである。これは、ア メリカのハートランドと呼ばれる中央部を中心に、地方団体が住民や企業と 一体となって、雇用の安定、持続可能な経済成長等、地域の経済発展のため に推進している計画である(USDA EZ /EC チーム)

    b.地域における創業・ベンチャー企業の育成
    創業・ベンチャー企業の育成による地域経済活性化については、特にカリ フォルニア州・マサチューセッツ州が有名であるが、産学連携(TLO 等)、 インキュベータの整備、SBIR (Small Business Innovation Research) 等の政府による支援などが成果を上げた。アメリカで創業・ベンチャー企業 の育成が成功した要因については、イギリスのスコットランドやフィンラン ドと同様に、インキュベーションに関するインフラの整備と、ベンチャーキ ャピタルの存在があげられる。アメリカのボルチモア大学のエース教授の実 証研究によれば、新しい技術等のナレッジは都市や地域に一様に蓄積するの ではなく、企業家が支援を受けやすいインキュベータがネットワークを形成 しているなどの集積がある場所に多く蓄積される。また、ハーバード大学ラ ーナー教授の研究によると、SBIR の対象となる研究開発型の中小企業につ いて、ベンチャーキャピタルの活発な地域とそうでない地域における雇用・ 売上高の比較をすると、前者には強い正の効果があり、ベンチャーキャピタ ルの役割が大きいことがわかる。アメリカのベンチャーキャピタル は、単に金融面のみならず、経営支援や技術評価まで行う総合的な支援機関 であるから、ベンチャーキャピタルが活発に活動することが、ベンチャー企 業にとって大きなメリットになる。

    c.民間のノウハウを活用した広域的地域計画の策定
    この事例としては、アメリカの地域計画協会RPA (Regional Plan Asso- ciation )があげられる。RPAは、非営利の民間組織であるが、1996 年2 月、 第三次地域計画「A Region at Risk」を発表した。RPAは、3州(ニュー ヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州)の地域計画を行っている。 RPA は、この地域を「危機に瀕した地域」と位置付け、「経済・不動産・環 境を改善し、人々の流動性を高め、労働力に投資し、より競争的で繁栄し、 持続可能な未来ある地域を形成する」ことを目標にして、民間のノウハウで 長期的な地域計画を策定し、実行している。

    また、イタリアの地域活性化の成功事例として、a.イタリアの北部を中心とした中小企業の産業集積の形成と変革、b.エミリア・ロマーニャ州経済発展機構(ERVET )があげられる。

    a.イタリアの北部を中心とした中小企業の形成と変革
    イタリアの産業集積(産地)には、コモ(絹製品)、ブリアンツア(家具)、モデナ(ニット・タイル)、プラート(繊維)等、零細な中小企業による産 業集積が多くみられるが、これらは70年代後半頃に現れ、以後急速に成長し、 90年代の経済構造の大きな変動にもかかわらず、柔軟に適応して成長を続けている。イタリアの繊維・アパレル等の産業集積地は、狭い地域に集積した 零細な中小企業群による分業体制をとっている点ではわが国と同様であるが、イタリアの方が大きく成功していると言えよう。その要因としては、(ア) コスト競争に巻き込まれない差別化されたデザイン性に優れた商品を製造すること、(イ)産業集積自体に企画・販売機能を有すること、(ウ)個人事業 意識が強く、経営環境の変化を乗り切ろうとする意識が強いこと、(エ)産 地に立地する他産業との連携や他産地とのネットワーク化によって製品を多 様化していること、(オ)産地独自の輸出組合・金融支援機関等によ る中小企業支援策が充実していること、などがあげられる。

    b.エミリア・ロマーニャ州経済発展機構(ERVET )による支援
    エミリア・ロマーニャ州経済発展機構は74年に設置され、産業政策を担当 している。これは官民共同出資による第三セクターで、州政府が株式の過半 数を持つが、他に職人企業連合体、商工会議所、金融機関が出資している。ERVET は、職人企業(従業員24人以内の企業)に対して、地域資源の活用と企業家精神の高揚によって、雇用の増大を図ることを目標とし、職人企業 団地のデザイン・設計、雇用増加を図りたい地区への企業誘致、新規起業者 に対する奨励金、若者の就業教育OJT に対する助成等、幅広い支援業務を行っている。ERVET はこのような幅広い業務を行うために、業種別のセンターを設立して、州内各産地に密着したERVET システムを構築している。

  3. わが国の地域活性化策の在り方

    これまで述べたわが国の地域経営の現状と問題点、並びにアメリカ・イタリアにおける地域経営の成功事例から、わが国の今後の地域経済活性化のためには、以下の3点が必要である。

    第1は、地域における新たな産業集積の育成である。
    地域経済の発展のためには、一般に「地域特化の経済性」や「都市化の経済性」を 有する地域づくりが必要である。「地域特化の経済性(localization economies )」 とは、「お互いに関連する同業種、一般には、同一産業内にある企業が特定地域 に集中立地することによって、それがばらばらに遠く離れて立地するときよりも 産業全体としての産出量が増大する場合」の経済効果のことであり、わが国では、「産地」や「企業城下町」の形で発展してきた。しかし、産地の多くは今 後技術の高度化、商品の付加価値化を図らないと、コストの安いアジア諸国等か らの追い上げを受けて衰退することが懸念される。企業城下町についても中核大 企業自体が産業構造の変革の波を受けているのみならず、下請け企業との関係も希薄になりつつある。

    また、「都市化の経済性(urbanization economies )」は「多種多様の産業が特定の地域に集中立地することによって、地域の経済活動の水準が高まり、個々の企業の産出量が増加する場合」の経済効果のことである。都市化の経済性は、首都圏を中心に進展しているが、地方都市ではこの経済性が発揮されているとは必ずしも言えない。そこで、地域を活性化させるには、一つの業種や技術に依存する従来の産地にみられるような「地域特化の経済性」のみならず、多様な産業が集積する「都市化の経済性」をも兼ね備えた新しい産業集積が必要である。

    イタリアの例にもあるように、地域活性化のためには、産地に立地する他産業との連携や他産地とのネットワーク化によって製品を多様化することが必要である。しかも、イタリアの場合は、これを企業単位で行うのではなく、企業の自主性は尊重するものの、協働組合や地方公共団体がリードしている。わが国でも、経営環境の変化に対応して、皆で同じ製品を作る産地から、多様性のある新たな産地へと転換できたところは成功している。例えば、新潟県燕市は洋食器の地域ブランドを確立し、輸出型地場産業の代表であったが、現在はその技術を応用しつつ、さらに専門デザイナーの活用により、多様な製品を生産する、多様性のある地場産業へと生まれ変わりつつある。

    地域ごとの新たな産業集積の形成という課題に対しては、「地域再生産業集積 (産業クラスター)計画」が2001年10月から本格化している。これは、「経済産業省地域経済産業局が、地方自治体と協働して、有望産業・企業を対象に、これら有望企業を含む産学官の広域的な人的ネットワークを形成、経済産業省の地域関連施策を効果的に投入し、これにより、地域経済を支え、世界に通用する新事業 が次々と展開され、産業クラスターが形成されていくことを目標とした計画」(経済産業省)である。この計画のポイントは、a.一社独力での新事業展開は極めて困難であるため、産学官の人的ネットワークを地域ごとに形成すること、b.地域経済産業局がネットワークの結節点となり多様な支援策を効果的に投入すること、c.地域の比較優位を踏まえ、まず19プロジェクトから始めて段階的に拡充 すること、である。
    今回の産業クラスター計画がこれまでの施策と異なり、次のような新しい方向性を持っておりことは評価できる。

    a.都道府県・市町村という行政単位に必ずしもこだわらない「地域」をベースと してプロジェクトを形成し、活性化しようとしていること。したがって、行政 単位を超えたネットワークを形成できる可能性が大きいこと。

    b.従来の民間の自主性を重んじた産官学の連携を一歩進め、地域経済産業局が自ら結節点となって、企業経営者と緊密に接触して、個々の企業の経営課題や特 徴を熟知した上で、各種支援策を効果的に投入しようとしていること。

    しかしながら、本計画を真に地域経営の柱として役立つ政策にするためには、さらに次の2点に取り組むことが必要である。
    一つは、産業集積の具体化、明確化である。本計画は地方の自主性を生かすよ りも国主導の色彩が濃く、地域のことを考えた行政を行うべき地方団体の基本計 画上の方向性、例えば、地域の特性を生かしてどのような業種を中心とする産業 集積を形成しようとしているのか、を具体化・明確化することが必要である。と くに、イタリアの産業集積にみられるように、地域の産業集積を支えて来た経営 資源の何を生かしながら、新しい産業集積に生まれ変わろうとするのかを明確にすることが必要であろう。

    また、地方団体のかかわり方についても、地方団体は、例えばクラスター参加 企業の推進、企業訪問の際の同行等で、本計画に参画すると考えられるが、さら に進んで、地域の将来像を描き、そのための戦略を策定することが必要である。
    二つには、実効ある企業支援策の具体化である。本計画を実行する際に、国以 外に具体的に誰がどの「支援策」を提供するのかについて明確になっていない。現状では、TLO (Technology Licensing Organization)、企業や研究者のデ ータベース提供、異業種交流等、従来の施策を単に総合化したに過ぎない計画と なることが懸念される。イタリアの例に倣って新たな産業集積を形成するには、従来準備して来た制度のインフラをベースとして、具体的な産業集積内での他業種との連携や、他の産業集積との連携を進展させることが必要である。そのためには、国だけでなく、地域において地方団体・大学・民間等の多様なノウハウを活用するべく、「結節点」に事業の将来性を見抜く「目利き」や、技術・マーケテイング・法務・会計等の専門的なノウハウを有する人材を育成・配置すること が不可欠である。この「結節点」を有効に機能させるためには、例えば、イタリアのエミリア・ロマーニャ州経済発展機構(ERVET)のような、地方団体・民 間団体等が一体となった組織をつくることも一つの方法である。
    とくに、ネットワーク形成の中核的な役割を担う産業支援機関を中心に、技術のみならず経営支援についても、地域の大学・各種専門家等によるリアルな支援体制が必要である。

    第2は、新たな産業集積の形成における中小企業の活用である。
    基盤産業の振興にしても、企業城下町にしても、大企業の経営戦略や財務状態に大きく左右されるような地域づくりは、大企業自体の経営改革(人員削減、地方拠点からの撤退等)が進展する中で、今後多くを期待できない。また、地域づくりを大企業に依存することは極めてリスクの大きなものになることを覚悟しなければならない。これまでの大企業依存から脱却し、むしろ成長可能性のある技術力・経営力を備えた中堅・中小企業を多く育成していくことこそが、地域づくりの正道である。とりわけ消費者ニーズの多様化に伴い、多品種少量生産の重要性が高まっており、大企業に比べて低コスト体質で小回りが利く中小企業の集積が優位になりつつある。

    21世紀の中小企業は、機動性・柔軟性・創造性を発揮し、「市場競争の苗床、イノベーションの担い手(消費者に対する多様な財・サービスの提供者、ネットワーク型の分業システムの構築者)、魅力ある雇用機会創出の担い手、地域経済社会発展の担い手といった、積極的な役割が期待される存在と位置付けていくことが必要である」(中小企業庁)
    地域の中小企業の重要性は、雇用面をみても明らかである。総務省「事業所・企業統計調査(1998 年版)」によれば、全国の雇用者数(民営・非一次産業)に占める中小企業の割合が69.5 %であるのに対し、大都市圏以外の地域では、84.7%と極めて高い(注10 )。一方、中小事業所比率を業種別にみると、高い順 に、不動産業(96.4%)、建設業(95.8%)、鉱業(94.3%)、運輸・通信業(8.0%)、金融・保険業(86.5%)と続く。これらの業種には、業績が悪化している業種も多く、雇用の吸収の観点からは不安が残る。
    そこで、今後は、全ての中小企業ではなくて、産業構造の変革に対応して、IT (情報技術)、バイオといった、成長が期待される分野や、新しいビジネスモデルを消費者に提示できる中堅・中小企業、医療・福祉・サービス等雇用を吸収し得る産業を地域内でいかに育成できるかが地域づくりの成否に大きく影響する。特に、前例、他社の動向、業界の慣行にとらわれない思い切った革新的経営を行う企業、すなわち「自立した中小企業」が、わが国経済を再活性化させることになろう。
    こうした「自立した中小企業」を育成するためには、例えば地方団体が地方大学・研究機関と連携して、大学等からの中小企業への技術移転である、TLO を推進したり、地域がサイエンスパーク等でビジネス・インキュベーションの場を提供したり、マーケットやビジネスモデル等の経営ノウハウに関する情報を積極的に提供することが必要である。従来からの地場産業、精密・ハイテク産業の集積や農業試験等の蓄積がある地域については、そのアドバンテージを十分に生かすとともに、地域独自の税制・補助金等の優遇策を講じながら、全国から研究機関等の頭脳を誘致してくることも、長い目で見れば活性化には有効な方策であろう。

    一方、政策のみならず、創業・ベンチャーを含む地域の中小企業に対する産業 振興支援施設(産業振興センター、インキュベータ等)・大学などの場を通じて、今後、民間サイドで官と協力して地域を経営するリーダー、企業家精神を持った人材の育成もまた不可欠である。
    中小企業の中でも、特に創業・ベンチャー企業の育成は長期的に重要な政策であるが、地方(大都市圏以外)でのこれら企業の育成には、金融面・経営支援面でハンディを負う場合が多い。金融面では、一般に地方企業は大都市圏の企業に比べて、株式公開等直接金融によって資金を調達できる機会が少ない。また経営支援面では、各地域に地域中小企業支援センターや都道府県等中小企業支援センターはあるものの、経営コンサルタントや弁護士・公認会計士等の専門家の数が大都市圏に比べて大幅に少ないのが現状である。このような地方企業のハンディを解消するためには、上記の地方におけるTLO やビジネス・インキュベーション等の活発な活動が必要であるが、併せて、インターネットを利用した専門家への相談サービスの活用も有意義であろう。

    第3 は、地方中核都市の育成と経済圏の広域化である。第1に述べた産業集積とも関連するが、これまでの「産地」や「企業城下町」でなく、都市化の経済性も発揮できる地方中核都市の育成が必要である。そのためには、これまでの製造業中心、特に大企業誘致型の地域振興だけではなく、商業やサービス業分野を含めた、自立的かつ総合的な地域振興が必要である。とくに、成長性の高い産業は、人材・資金・研究機関・情報インフラ・他産業といった都市の集積のメリットを大きく受けるので、地域の将来を担う産業は地方中核都市に立地させることが必要となる。
    また、集積の方法についても、東京のように大都市を際限なく拡大するのではなくて、比較的大きな中核都市を中心にして周辺市町村がネットワークを形成し、地域における一種の広域経済圏を形成することが、中核都市、周辺市町村双方の財政負担を増加させることなく豊かな財政基盤の上に都市集積を形成する最も適切な方法であろう。
    この点、アメリカのエンパワーメント・ゾーンは、わが国の地方中核都市の育成と周辺地域とのネットワークを作る際の手本となる。また、地域計画協会RPAは大・中都市とその周辺地域のより広域にわたる自主的な地域活性化のための計画を策定し実行する機関として、参考となろう。
    今後、地域経済を活性化し、地域間競争の中で特色を出すためには、公共事業等の短期的な施策に頼らず、官民一体となって地域の産業構造を市場や環境に適合したものに変えていくことが必要である。そのためには、財政依存・大企業依存から発想の転換を図り、長期的な地域経営の柱として、地域における産業集積と地方中核都市の形成が切に求められる。
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