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Business & Economic Review 2004年10月号

【STUDIES】
実質利子率の国際的な“共通変動”とその要因-利子率決定プロセスへのBSM アプローチ

2004年09月25日 新美一正


要約
  1. 本稿の具体的な分析対象は、主要4カ国(アメリカ、イギリス、日本、ドイツ)の事前予想ベース実質利子率の変動における共通属性(co-features )の存在を確認すること、および、そうした共通属性が発生する要因を実証的に考察することの2点であるが、分析の基本的な問題意識は、長期化するデフレーションに対してリフレーション政策(一般物価水準を引き上げる政策)の発動を必要とする立場からの、わが国マクロ経済政策に対する批判的な政策提言の導出である。

  2. 経済主体の予想形成を分析モデル内で明示的に取り扱うためには、実質利子率は事前予想ベースの数値である必要がある。さまざまな推定方法が提案されているが、本稿では、Koopman,etal.[2000][24]によって特定化された基本構造時系列モデル(basic tructure model,BSM)を分析ツールとして採用した。BSM は、複数の循環要因や季節性などの追加的な要因をモデル内で明示的にコントロールできる利点を持っている。推定された各国の実質利子率は、とくに1980年代から90年代前半にかけて、かなり似通った水準・波動を示している。もう一つの注目点は、90年代後半以降、日本の実質利子率が他の3カ国とはかなり異なった動きを示しており、とりわけ、1999年以降は他国の実質利子率がかなり明確な低下傾向を示すなか、ほぼ4年近くにわたって、低水準ながら安定的な推移を続けた点である。この結果、2001 年以降、日本の実質利子率はアメリカのそれをむしろ上回る水準となっており、実質利子率水準で比較する限り、日本は国際的に「異常な低金利」状態にあるとはいえない。

  3. 次に、対象4カ国間で、推定された実質利子率に何らかの国際的な連関関係が存在するのではないか、という問題意識に立ち、実質利子率に多変数BSM の枠組みを適用して、それらの長期的なトレンド(レヴェル)と循環とを分離・抽出する試みを行った。その結果、4カ国の実質利子率は一つの共通循環ベクトルを持ち、その意味において、実質利子率の短期的な動きは共通の要素を含んでいることがわかった。これは、ある国における金融政策のショックが、他国の実質利子率に短期的な影響を及ぼすことを意味しており、政策効果の分析において国際的な視点が不可欠であることを示している。

  4. 実質利子率と他の経済変数との間で、VAR 予測誤差に基づく相関係数分析を行ったところ、実質利子率と実質生産との間では、比較的短い時間的視野で、有意に正の相関が検出された。一方、実質利子率とインフレ率との相関関係を見ると、ドイツを除く3カ国では、長期・短期の時間的視野に関係なく、インフレ率と実質利子率が負の相関関係を持つことを示しており、フィッシャー命題を根拠としたリフレ政策無効論とは対立的な結果が得られた。以上の分析結果は、金融緩和を中心とするリフレ政策が実効性を持ち、かつ、比較的に副作用の少ないマクロ経済政策であるという主張を裏付けるものである。

  5. 現下のわが国経済は景気回復期待に溢れているが、ここまでの回復が外需の寄与とアメリカのリフレ政策に端を発する金融政策面での短期的な好循環とに支えられてきた側面も否定できない。回復の足取りを確固としたものにするためには、追加的なマクロ経済政策の発動が必要である、というのが本論文の基本的な問題意識であり、結論でもある。具体的には、金融政策では量的緩和の軸足を国債買い切りオペに移行させると同時に、下限2 %上限4 %程度のインフレーション・ターゲティングを導入して、民間のデフレ・マインドを一掃する必要がある。財政サイドでは、長期的なスタンスに立った財政再建スキームの構築が急務であり、その際、個人所得税においてビルトイン・スタビライザー効果を享受できる方向への制度改革、株式・土地の譲渡益課税については、これらを正しく捕捉し、公正に課税できる徴税システムの構築、がそれぞれ必要である。
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