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Business & Economic Review 2003年03月号

【STUDIES】
わが国クレジット・カード業界の展望

2004年02月25日 調査部 経済研究センター 鈴木大洋


要約

  1. クレジット・カード市場は1980年代以降順調な拡大を遂げ、2000年末現在で約30兆円の規模に達し、今後5年間で40兆円まで拡大する見通しである。カードの利用別内訳をみると、一括払いとキャッシングおよびカード・ローンの取り扱いが牽引車となっているのに対し、割賦信用の取り扱いは伸び悩み傾向を強めている。クレジット・カード市場が堅調に拡大していることの背景としては、消費者意識にクレジット・カードが定着してきたことに加えて、カード支払いが可能となる決済機会が増大していることが指摘出来る。
    消費者信用市場全体のなかにクレジット・カードを位置付けると、まず販売信用の分野では、個品割賦が低迷を続けているのに対して、クレジット・カードとりわけ一括払いが、その利便性の高さを評価されて、大きく伸びている。また消費者ローンの分野においては、キャッシングおよびカード・ローンは、消費者金融会社の後塵を拝してはいるものの、銀行などの民間金融機関がシェアを急減するなかで、シェアを拡大している。

  2. クレジット・カード市場は順調な拡大を持続しているものの、個別カード企業にとっての環境は、一段と厳しさを増している。クレジット・カードは、競争激化を背景に大量新規発行、大量解約時代を迎えている。まず、既存カード会社が、従来の棲み分けを崩して、相互に他のマーケットを侵食している。さらに、他業態から盤石な自前の顧客基盤を有する企業が新規参入を果たしている。
    競争激化の結果、a.カード会社、カード会員いずれもが同質化し、サービスの差別化が次第に困難となっている、b.カード・ビジネスの収益性が急速に低下している、という状況が生じている。
    クレジット・カード各社は、決済サービスの対価としての加盟店手数料や年会費に依存することをやめて、a.ローン・サービスを充実させて、その対価として金融収入を得る、b.小売業者に販促ツールを提供して、その対価として手数料を得る、という二つの方向へとビジネスの舵をきろうとしている。

  3. 今後、わが国においてもリスク社会が本格的に定着することから、家計、個人のローン・ニーズが高まるものの、クレジット・カード会社がこれをビジネス・チャンスにつなげていくためには、a.リスク管理能力の向上、b.個人信用インフラの構築、c.国産カード・ブランドの再構築、の3条件をクリアする必要がある。

    (1)クレジット・カード会社がリスク管理能力を高めるためには、「リスクの分散」が基本的な戦略となる。すなわち、消費者金融会社のノウハウにのみ依存するのではなく、幅広い顧客基盤と多様なローン業務という消費者金融会社にはない強みを活かして、無担保ローンのリスクを総合的に管理する必要がある。

    (2)個人信用情報インフラを構築するための鍵は、a.個人信用情報に関するデータベースの高度化、b.個人信用リスクを測定するための尺度の共有化、c.インフラを整備するための立法措置、の3点である。これらの条件と各カード会社の与信管理能力の向上とが相まって、消費者信用市場の活性化を実現することが出来る。

    (3)カード会社と顧客との間にブランドを介して強い信頼関係が成立して初めて、カード会社は顧客とローン取引を行うことが出来る。銀行系カード各社は、従来の国際ブランド依存型の経営戦略を抜本的に見直し、国産ブランドの存在感を強めるべき局面に差しかかっている。

  4. 再編を迫られ、生き残りを賭けている流通業にとって、戦略的なカードの役割とは、クレジット・カードをコアとして、対顧客関連の業務全体を見通したサポートを提供することである。その条件とは次の二つである。

    (1)まず、カードを導入することによって、決済事務が効率化すると同時に、顧客にとっての利便性が高まることである。もっとも有効な方法は、決済時間を現金決済の場合よりも短縮することである。この結果、流通・小売りにとって、レジにおける混雑緩和とともに現金のハンドリング・コストが減少するという効率化効果が期待出来る。

    (2)次いで、カード・システムが得意とする会員管理のノウハウを、顧客囲い込み、マーケティングに活用することである。そのための要件は、a.自社カードの顧客の購買データだけを対象にするのではなく、大半を占める現金決済の顧客に加えて、他社カードによる決済顧客の購買情報と属性情報を捕捉すること、b.カード・システムとPOS システムとの整合性を強めること、の2点であり、これにより、カードに基づくデータベースが、流通・小売りにとって必須のマーケティング・ツールとなろう。

  5. クレジット・カード業界においては、厳しい競争が持続し、従来型のビジネス・モデルはすでに陳腐化しつつある。その一方で、金融、情報通信のイノベーションを背景にクレジット・カード・システムの応用分野は、急速に拡大している。斬新なアイデアとそれを具体化するシステム構築力が今後のカード産業を生き抜くための鍵である。
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