Business & Economic Review 2003年03月号
【STUDIES】
わが国産業の国際競争力の現状評価と課題-電気機械産業を中心に
2003年02月25日 調査部 経済研究センター 益田郁夫
要約
- 1990年代に入って、わが国産業の国際競争力低下への危機感が強まっている。そこで、一般に国際競争力のメルクマールとされる項目について、わが国の現状を検証した。まず、IMDの国際競争力ランキングをみると、わが国は93年の1位から2002年には30位に後退した。ただし、IMDの国際競争力ランキングの低下は、必ずしも製品全般の競争力を反映したものではない。とくに98年以降のわが国のランキング低下の主因は、経済パフォーマンスの悪化によるものであり、製造業全体の競争力との関連性は薄いと考えられる。
- 次に、生産性上昇率をみると、90年代において、製造業全体では日米間に大きな差がないなかで、わが国リーディング産業の一つである電気機械産業の生産性上昇率は、わが国がアメリカを大きく下回った。理由は、わが国の電気機械産業の生産性上昇率が高水準を維持している一方、アメリカの上昇率がわが国を大きく上回ったためである。わが国電気機械産業の競争力が低下した要因は、わが国よりもむしろアメリカにある。
- 貿易収支をみると、貿易黒字の対GDP 比率(実質ベース)は高水準を維持している。一般に、製造業全体の生産性上昇率が他国を下回り、国際競争力が低下すると、中長期的には貿易収支の悪化、ないしは自国通貨の下落が生じると考えられる。現在、実質実効為替レートは、プラザ合意前後の平均水準対比やや円高の水準にあるが、この為替レートの下でも貿易黒字が高水準を維持していることを考えれば、国際競争力が低下しているとはいえない。
- 技術貿易収支も93 年度に黒字に転じた後、黒字幅は着実に拡大している。わが国の技術水準が高まっていることと、製造拠点の海外シフトに伴い海外現地法人からの技術料受取額が増えているためである。海外生産シフトが進展していることは、技術水準の面でわが国産業の優位性が向上した結果であるとは必ずしもいえないものの、自動車産業など海外生産の拡大が日系企業の世界シェアの拡大を伴う場合には、わが国の技術の優位性が高まっていると判断される。なお、アメリカにおける特許成立件数では、わが国のシェアはやや低下傾向にあり、なかでも電気機械分野での低下が顕著である。
- わが国製造業の売上高営業利益率は、90 年代を通して、おおむね3 %台の低水準で推移した。一方、アメリカでは93 年から2000 年まで7 %台の高水準で推移しており、日・米間に大きな差がある。しかし、わが国製造業の収益率が低下した直接的な要因は、国内需要の落ち込みにあり、国際競争力の低下が主因であるとは考えられない。こうしたなかで、電気機械産業の利益率は、製造業平均より低水準で推移した。これに対し、アメリカでは2000 年まで製造業平均より高い水準で推移した。この違いは、収益性の高い製品分野でアメリカ企業の競争力が高く、日本企業の競争力が低いことを反映している可能性がある。
- 以上を踏まえると、電気機械産業では国際競争力の低下が認められるものの、現在までのところ、電気機械産業の競争力低下に伴う影響を自動車産業などが補っており、産業全体でみると国際競争力が低下しているとは言えない。しかし、電気機械産業の競争力の低下が続けば、産業全体の国際競争力の低下がいずれ現実のものとなる可能性がある。
- わが国電気機械産業の競争力を低下させた要因として、a.中国経済の台頭により製造基盤が侵食されたこと、b.製品のモジュール化やオープン化の流れが強まった結果、「すり合わせ技術」の優位性によって製品の競争力を確保することが難しくなったこと、c.IT化やグローバル化などに伴い、「選択と集中」型の経営の優位性が高まるなか、わが国企業の対応が遅れ、高い技術力や豊かな資本を有効に活用出来なかったことをあげることが出来る。これらの要因のうちa.とb.は、今後もわが国経済の成長抑制要因として作用する可能性が高い。
- 国際競争力を維持・強化するためには、国外では自由貿易体制の推進によって、また国内では規制改革の推進によって、市場メカニズムが働きやすいシステムを構築することが重要である。
自由貿易体制の推進に関しては、新ラウンド交渉やFTA 交渉を成功させることに加え、輸入制限の撤廃や知的財産権保護など中国にWTOの加盟条件を順守させることによって、自由貿易体制をより中身のあるものにしていく必要がある。 - また、技術や経営の全般的な向上を図る必要性がある。とりわけ、わが国製造業復活の鍵を握るのが、製造技術の全般的な向上につながる可能性を秘めたナノテク分野であることから、同分野に対する政策的サポートを一段と強化することが必要である。また、経営改革を促進させるために、企業組織再編制度をさらに改善することが重要である。この観点からも、連結付加税を早急に廃止すべきである。