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Business & Economic Review 2003年03月号

【POLICY PROPOSALS】
わが国の金融・証券税制の問題点と見直しへの視点-リスク・テイクを促進する税制とは

2003年02月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 三上寿雄


要約

  1. わが国における現行の金融・証券税制は、所得分類の多さや商品ごとに税率・諸控除・徴税方法が異なる、などの点で極めて複雑であり、改善が必要と長らく指摘されてきた。こうした批判に応えるように、2002年度および2003年度の税制改正では、主として証券関連税制が見直された。
    しかし、依然、金融商品の所得区分は多岐に及び、新たに優遇措置や損益通算規定が加わることによって一層複雑な仕組みとなったため、課税の中立性、制度の簡素性などの観点から、改善が必要と考えられる。

  2. 「貯蓄優遇から投資優遇へ」のスローガンの下、証券市場活性化の手段として税制を最大限活用すべき(資本市場活性化税制)との要請も強まっており、近年の税制改正では、上場株式、株式投資信託などに対する各種税制優遇措置(時限的措置)が講じられたところである。しかし、現行の資本市場活性化税制には、a.税制優遇が際限なくエスカレートする懸念、b.税制優遇の対象が不適切、c.リスク・テイクを支援する制度が不十分、d.税制の影響力への疑念・中立性との整合性、の点で問題がある。

  3. 資本市場活性化のツールとして税制を活用すべきとの立場は、税制が金融資産選択に影響を及ぼすことを前提としている。もっとも、過去の実証分析結果では、税制変更の金融資産選択への影響は不明確である。また、わが国では、株式に比べ預貯金が税制上優遇されてきた結果、預貯金のシェアが高いとの通説が根強いが、過去の金融・証券税制の推移、利子・配当課税の実効税率の比較をみると、通説に疑問がないわけではない。資本市場活性化の主役は、あくまでも企業の収益力・経営の透明性向上に向けた努力であり、税制は脇役に過ぎない。投資優遇措置の拡充・強化によって、直ちに資本市場が活性化するわけではないことには留意が必要である。

  4. 金融・証券課税が複雑なわが国とは対照的に、北欧諸国の多くでは、すべての金融商品に対して一律の税率を適用する二元的所得税が導入されている。二元的所得税は、理論的には、勤労所得と資本所得を区分し、前者を累進税率で、後者を比例税率で課税する制度である。この制度は、資本は労働よりも流動的であることを前提に資本軽課、労働重課の課税体系になっており、これによって課税の中立性、効率性、公平性が図られる点で望ましいとされる。スウェーデンでは、二元的所得税は租税裁定の抑制に一定の役割を果たしたとして評価されている。

  5. 当面、金融・証券税制は、証券関連商品への優遇措置を付与した体系とならざるを得ないが、あくまでも時限的措置と認識すべきである。現行のインセンティブ税制は、中立性や簡素性などの点で少なからず問題を抱えており、中長期的には、課税の中立性、公平性、簡素化などに配慮した税制の構築が必要である。5年以上先を展望した中期的な税制のあるべき姿として、金融商品間の中立性確保、税制の簡素化などの観点に加えて、個人のリスク・テイク促進を目的とした「日本型二元的所得税」の導入は十分検討に値する。具体的には、a.利子・配当・譲渡益などの金融所得を一括して比例税率(一律20%)で分離課税する、b.金融所得内での全面的な損益通算、および無制限の損失繰り越しを容認する、c.金融所得間で損益通算が必要な場合は、申告分離課税、そうでない場合は、現行の源泉分離課税で納税手続きが完了する仕組みとする。なお、二元的所得課税導入後は、現行優遇税制は原則廃止し、名実ともに簡素な税体系を目指す。

  6. 1,400兆円の個人金融資産の大半を高齢世代が保有している現状から判断すると、税制で個人に株式の直接保有を促すことは、決して容易ではない。このため、リスク・テイクを促すような税制を導入するとともに、高齢者以外の層すなわち若年層などのリスク・テイクをいかに支援するかが優れて重要な政策課題といえる。日米両国のリスク資産の保有状況をみると、直接的な株式保有は、日米とも高所得階層に偏っている。アメリカでは、中堅所得層の投資信託などを通じた間接的な株式保有形態が拡大しているほか、401(k)プラン、IRAなどの確定拠出型年金の成長が、資本市場の活性化に大きな役割を果たしている。

  7. 若年層などの資産形成過程にある勤労世帯は、比較的長期の資産運用が可能な反面、リスク許容度に限界があるため、リスク資産投資を行いにくい傾向にある。また、現行の課税方法は、資産保有層の運用に比べて勤労所得からの貯蓄が不利に扱われるため、勤労世帯のリスク・テイク支援のみならず課税の公平性の観点から、勤労所得からの貯蓄に対する優遇措置の付与が是認される。以上の点を勘案すると、現行の確定拠出型年金制度を、対象者、金額共にアメリカ並みのレベルに拡充することが必要である。
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