域外でも戦える企業主導で回復の道を探る関西経済
- 2010 年度関西経済の見通し -
2009年12月10日
【要 約】
1. リーマン・ショックによって激しく落ち込んだ世界経済は、各国の思い切った財政・金融政策の効果で、急速な収縮過程からは脱け出したが、各国で生じた2009 年4~6 月、7~9 月の比較的高めの経済成長は、それ以前の異常な収縮からの反動と政策効果に依存しており、今後も不安定な展開が続く。ただし中国やアジアでは、先進国に比べて最悪期からの経済の反発力は強いと考えられるため、アジア向けの比重が大きい関西の輸出は増加しやすい。
2. 過去の製造業の設備投資調整局面をみると、企業収益が持ち直しに転じても、設備投資は同時には回復しない。これは、経営環境を確かめ、投資計画を練り直し、さらに実施に踏み切るまでに一定の期間を必要とするためである。今後、売上高は最悪期に比べると増収となり、企業収益は増加に転じるが、設備投資が回復するのは2011 年度になる。
3. 雇用者報酬は、雇用面で調整が進み、賃金面では特別給与に企業業績悪化の影響が本格的に表れているため、大幅に減少している。今後は、鉱工業生産が最悪期に比べて持ち直していることから、その影響が所定外給与や雇用に及んでくるが、他方、雇用を積極的に増やすことには慎重な企業も多い。また特別給与は、企業業績を踏まえて決定される傾向があるため、回復は2011 年度にずれ込む。雇用・所得環境の厳しさから予算制約の影響が強く、個人消費の増勢は弱い。
4. 他の需要に期待を持ちにくい状況下で、牽引役を担うのは輸出や移出である。増強が続いてきた関西の製造設備が生産を開始する段階に達するにつれて、海外や国内の他地域への製品や部品の供給が増加し、輸出や移出を押し上げる要因になる。2010 年度の関西の実質経済成長率は、3年ぶりにプラスに転じ、0.7%と見込まれる。
5. バブル崩壊後、関西の業況判断DIはほぼ一貫して全国を下回り続けたが、前回の景気上昇局面では2004 年以降、関西が全国を上回るようになった。関西経済が復活の手がかりをつかみ始めたことを象徴する動きであったが、リーマン・ショックの後、全国と関西の業況判断の水準に再び逆転が生じている。しかし、これは「関西経済の地盤沈下」への後戻りを示唆するものではなく、景気悪化による短期的な現象である。企業部門の持ち直しにつれて関西の企業の業況判断DI も改善傾向を強め、再び全国を上回るようになるだろう。
6. 関西に限らずどの地域でも、厳しい経営環境を勝ち抜けるのは、技術、製品企画、販売など総合的な経営力で国内や海外の競合先と伍していける企業に限られる傾向が強まっている。こうした企業によって関西経済の回復が主導されるとしても、その恩恵を広く多くの企業が受動的に享受できるとは限らない。回復が進むにつれて、好調な企業と不振に苦しむ企業の差はむしろ広がる。
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