コラム「研究員のココロ」
高度成長時代の思い出
2004年12月06日 平康 慶浩
売上数百億円前後の企業の副社長と3日ほど、同行する機会があった。私が設計した新人事制度説明を目的として各支社を強行軍でまわったためである。副社長のご年齢は60歳を過ぎた頃。経営者としてはまだまだ脂ののったご年齢ではないだろうか。
とある支社で慰労会に招かれ、そこで高度成長時代の人事のお話しを伺った。
昭和40年代、高卒警察官の初任給が7,000円という時代に、この会社ではその当時、大卒初任給が30,000円であったらしい。そしてその後数年で倍に昇給するような状況であった。もっとも調子が良かった頃には、業績賞与3回分で家が買えたとのことである。
ほどよく酔われた副社長は、心にある大事なものを慈しむかのように、当時のお話をされた。私も杯をかさねさせていただきながら、ほんの少しだけ昔の話を、嬉しく聞くことができた。
今回我々が説明して回った新人事制度はいわゆる成果主義人事である。
会社に貢献した人に手厚く、そうでない人には厳しく処遇する仕組みの導入である。
しかし、いかに手厚く遇したところで高度成長時代に匹敵するような処遇になるわけではない。企業の利益が横ばい、あるいは右肩下がりの状況においてはどうしても限られたパイを分け合うために大きな差をつけるわけにはいかないからである。賞与部分で3倍程度の格差をつける仕組みを導入してなお、高度成長時代には至らないのである。
高度成長時代を知らぬ世代として、あるべき論をふりかざしコンサルティングを続けることが正しいことかどうか、私自身も酒に酔いながらぐるぐると考え込んでしまった。
「しかし、今の時代には今の時代のやり方があるんだ。今回の改革を、頑張って浸透させてゆきましょう。」
思い出話をそう締めくくってくださった副社長の表情は、厳しさのなかにぬくもりを感じさせるものであった。