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コラム「研究員のココロ」

NPOと企業のパートナーシップについて最近思うこと

2004年11月22日 矢ヶ崎 紀子


1.企業の社会的責任(CSR)

 近年のCSRへの関心の高まりは、企業の社会貢献活動を、地域社会というステークホルダーとの積極的なコミュニケーションのチャネルであると考え、さらには、社会をより良いものにしていくための投資であると考えるトレンドをつくっている。
このような背景のもとで、企業の社会貢献活動の重要なツールの一つとして、NPOとのパートナーシップが志向されるようになってきた。共通の目的のもとに人々が集まるテーマ型コミュニティであるNPOが、地域社会のニーズや課題をよく把握していること、そして、その課題やニーズに対して具体的な解決方法としてのサービスを提供していること、などが理由となっている。すなわち、企業は、NPOと組むことによって、地域社会の課題に対応する具体的な手段を得ることになる。


2.NPOと企業のパートナーシップ

 パートナーシップとは、本来、対等な立場の者同士が、各々の異なる資源をもちよって、共通の目的のために共に働くことである。しかし、我が国の企業の多くは、NPO活動への支援もパートナーシップの形態に含めて考えているようである。

(1)企業によるNPO支援
 実際に行われている支援例について、NPOのどんな資源の充実を支援するかによって分類してみてみよう。
 NPOで働く人への支援では、日産自動車がNPOで仕事をすることを希望する学生に受け入れるNPOを紹介し、NPOで働いた報酬を奨学金として学生に支給する「日産NPOラーニング奨学金制度」などがある。ファイザー株式会社では、同社が重要視する社会貢献分野である“心とからだのヘルスケア”の領域で活躍するNPOへの助成を行っている。情報面での支援では、NTTコミュニケーションズが、NPO法人の現状を多くの人々に理解してもらうために日本 NPOセンターの「ウェブサイト“NPO広場”」の運営を支援している。 三菱地所では、事務所移転やオフィスのレイアウト変更によって不要になった家具や事務機器を社会福祉施設やNPOに提供する「オフィス家具リユースネットワーク」を実施している。

(2)社会貢献活動におけるパートナーシップ
 NPOへの支援から一歩踏み出して、NPOと協働して社会貢献活動のプログラムを企画・運営している事例もある。日本電気株式会社(NEC)では、中学校や高校の理科の先生がメンバーであるNPO法人ガリレオ工房との協働で、小学生に科学実験を楽しく体験してもらう「NECガリレオクラブ」を実施している。また、同社では、NPO法人ETICとの協働で、NPOによる起業を目指している学生を支援する「NEC学生NPO起業塾」を開催しており、実際に数人の起業家が誕生している。

(3)本業同士のパートナーシップ
 これまで延べてきたことは、企業からみるとあくまで社会貢献活動の一環である。このため、NPOと接する窓口は、社会貢献活動担当部署の場合が多い。
 一方、企業とNPOがお互いの本業部分で連携を構築しつつある事例もみられるようになってきた。例えば、子育て支援NPOと企業のマーケティング部が、子育て中の母親のニーズを商品開発に反映するために協力関係をもつような場合である。また、環境にやさしい自転車タクシー(ベロタクシー)の側面に企業の広告を入れることによって、ベロタクシーを運営しているNPOは広告宣伝収入を得ることができ、企業は環境問題に取り組んでいる企業というイメージを向上させている例もみられる。


3.NPOと企業の関係づくりの課題

 NPOと企業は、企業の社会貢献活動というチャネルを通じて、あるいは、本業におけるパートナーとして、お互いの接点を増やしつつある。これは、我が国のNPOが社会的に責任ある主体として成長していくために、そして、企業が社会的責任を果たしていくために、喜ばしい傾向である。
 しかし、NPOと企業が相対する現場に、リスクや問題が生じていないかというと、そんなことはないのである。筆者は、NPOと企業が出会う現場に立ち会ったり、また、そういった実態に詳しい実務家の方々と話し合うなかで、3つの懸念をもっている。

(1)お金ありきのパートナーシップ
 NPOはミッション(使命)を活動や組織運営の根幹においている。しかし、その精神も、企業が提示する豊富な資源の前に、揺らぐことがある。NPOに 100万円の助成を行う企業があったとしよう。そこに申請してくるNPOの多くは、実際にかかる事業費のうちの一部を企業からの支援で賄えたら…と思っているであろうが、実は、なかには、「100万円もらえるなら、100万円分の企画をたててみよう」と思っているNPOもある。こういったマインドで企画を立ててくるNPOが助成対象となった場合、企業が利益から拠出した資金は、果たして、有効に活用されたと言えるのだろうか。もちろん、資金不足に悩む NPOにとって、ある程度のまとまった金額の助成は、次のステップに挑戦する場合等に重要な資源となる。しかし、こうした支援を正しく理解しないで、お金ありきの事業展開をしようとするNPOには、企業は注意をしたい。また、NPOの側も、ミッション・オリエンティッドな組織であることに誇りを持ち続けたいものである。

(2)企業の側からのおしつけ社会貢献
 今や、企業には、社会貢献活動をしなければならないといった社会的なプレッシャーがかかっているといってもよい状況である。このため、企業においては、自社が持っている資源を社会貢献活動に活用したいといったシーズを優先する視点が出てきやすくなる。そして、社会貢献活動を行ったという実績を得るために、支援の結果は検証せずに、希望のあるNPOには先着順に支援するとうことにもなりかねない。支援は、一見、持てる企業が持たざるNPOに対して行う善意の施しのようなイメージをもたれがちである。しかし、支援は、単なる一過性の施しではなく、その成果にもある程度の責任が生じるものではないだろうか。この意味で、企業の社会貢献活動には明確な理念と方針が必要となり、お互いの考え方が合致したところにこそ、有効な支援が成り立つのである。企業は、自社の資源を活用して社会貢献活動の“実績”を上げることだけを重要視するのではなく、NPOを支援して地域社会の課題を解決するのだという理念を忘れないようにしたい。

(3)マーケティングのために犠牲にされるプライバシー保護
 NPOは企業が欲しがっている情報をもっている。これまでのマーケティング手法ではなかなか把握しきれない特定の層の本音や特定エリアの住民の情報などである。こういった情報のなかには、プライバシーに係るものもあるのだが、NPOによっては、「名の通った企業さんから協力の依頼を受けた」ということに有頂天になってしまって、よく考えずに情報を渡してしまうこともある。これをしてしまうと、NPO自体が関係者からも地域社会からも信頼を失ってしまうことになる。企業にとっても、このような情報入手の方法はコンプライアンス上も極めて問題である。サービスを提供しているNPOにとって、そのコアコンピタンスは、特定の分野における高い精度の情報をもっていることである。NPOはこの自覚を持ち、そして、情報のハンドリングには最新の注意を払う必要がある。

 こうしたことに加えて、NPOと企業の現場に詳しい実務家からは、「NPOと企業がきちんとした契約を取り交わしている例をあまりみたことがない」との指摘も聞こえてくる。NPOと企業の関係には、お互いに対する理解不足も含めて、まだまだ課題が多い。しかしながら、NPOが社会サービスの担い手として、あるいは、社会変革の担い手としての力量を高めていくためには、したたかな企業とも対等にわたりあっていけるような力をつけていくことも必要である。そのためには、NPOに企業を経験した人材が流入することや、NPOを支援する機能を強化していくこと等が求められよう。NPOには、行政も地域経営の観点からパートナーとしての期待を高めている。企業も、社会の課題解決のパートナーとしてNPOとの関係を求めている。ぜひ、気概あるNPOには、このような“期待”のベクトルをバネとして、力量の向上にチャレンジしていってもらいたい。
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