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Business & Economic Review 2003年02月号

【REPORT】
「構造改革特区」を成功させるために

2003年01月25日 調査部 経済研究センター 小川昭


要約


「構造改革特区」が経済活性化の切り札として注目を浴びている。これに関しては、昨春以降に活発な議論がなされてきており、その論点はきわめて多岐にわたり、議論は拡散しがちであった。
これは、そもそも「特区」をどう位置付け、どう捉えるかについての考え方が複数併存しており、複数の議論が展開されてきたことが背景にあると考えられる。本稿では、特区を巡る議論の経過を踏まえて、その考え方を整理し、その特徴や相互関係について検討したうえで、現在の特区法(「構造改革特別区域法」)について評価するとともに、改革案を提言する。


従来の議論の背景にある考え方を探ると、「特区」は、「理念型」として以下の3種に分類可能である。すなわち、

a.特定地域の経済活性化のために、規制の撤廃・緩和を中心に財政支援を組み合わせた特別措置を国主導で講じ、産業集積を図る「国家戦略型」特区、
b.全国一律の規制改革が政治的に困難、あるいは改革効果が明らかではない規制項目について、先行・実験的に規制改革を実施する「緩和先行型」特区、
c.地方分権の一環として、地域のニーズにあった規制改革を地域自らが自由に選択・実施する「分権推進型」特区、

である。


「国家戦略型」特区は、経済活性化のためのいわば国家プロジェクトという位置付けであり、財政面を含んだ総合的施策が採られることが特徴である。したがって、成果を上げるためには、

a.経済効果が全国的に波及するような対象・立地の選定、
b.国費支出をはじめとした諸施策が効果的になされるような「特区」数の絞り込み、

といった点がポイントとなる。国がイニシアチブを取るとはいえ、施政主体は地方自治体となるため、国と地方との意見調整も必要。なお、OECD の「有害税制」(立地の移動が容易な「足のはやい産業」について、税制優遇措置によって誘致を図ること)に抵触しかねないため、産業のなかには、「特区」の誘致対象産業とする際に問題が生じる可能性もある。


「緩和先行型」特区は、現在政府が推進している「構造改革特区」の背景にあるとみられる考え方である。この考え方のもとでは、自治体のチャレンジ意欲をいかに引き出し、いかに多くの自治体が「特区」として規制改革を推進するかが、全国的な規制改革を促進するうえで重要である。したがって、

a.対象となる規制項目をいかに広げるか、
b.規制改革によって生じうる損失をどのようにリスク・シェアリングするか、
c.特区での規制改革の成功体験をどのように活用するか、などの点について検討が必要となる。当然、規制改革に伴う弊害を未然に防止するためには、
d.適切な代替措置(対応策)の設定、
が必要不可欠である。


「分権推進型」特区は、規制政策に限定した地方分権化という位置付けで、各自治体が地域ニーズを踏まえて、必要に応じて「特区」化することになる。したがって、

a.対象となる規制項目をいかに広げるか、
b.経済活性化と特区の推進が相反した場合にどのように調整するか、
c.政策変更に対応した自主財源の拡充を、地方分権のなかでどのように図るか、
などが制度策定上の要点である。


特区法の評価と求められる施策
2002年12月に成立した特区法は、総合規制改革会議が議論を終始リードし、その目的意識が「規制改革の促進」であることを踏まえると、「緩和先行型」特区を骨格としているとみられる。「緩和先行型」の考え方に照らし合わせて法案を評価すると、

a.対象となる規制項目は限定的、
b.規制改革によって生じうる損失についてのリスク・シェアは検討対象外、
c.特区の成果に関する評価、および成果活用スキームは不明確、
d.代替措置は総じてみれば必要最低限ではなく厳格、
と考えられ、このままでは十分な成果を上げられない可能性が大きい。

「特区」を成功させるには、中立的な評価を定期的に実施し、成果の上がった規制項目については、一定期間内に国会への上程を義務づける、といった法改正が必須である。規制項目については、大幅な拡充が極めて強く望まれる。その際には、議論をオープンにし、批判・反論についても積極的に募集して議論を活発化することが、規制項目の組み込みに関して、国民的コンセンサスを形成して推進するために重要である。


なお、特区実施にかかる財源としては、短期的には既存補助金の使用を柔軟化することが有効である。「国家戦略型」のような特区とリンクした財政措置は、「国家戦略型」と「緩和先行型」の意図する特区像が対照的であるため避けるべき。中長期的な財源確保には、「分権推進型」の考え方においてポイントとなる地方の自主財源の充実が求められる。つまり、このような形で「緩和先行型」特区に、明確な形で「分権推進型」特区の要素を取り込むことが望ましく、「特区」は規制改革についてのターニング・ポイントとなるのみならず、地方分権について改めて検討する端緒とも位置付けられよう。
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