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Business & Economic Review 2003年02月号

【FORECAST】
新年世界経済の展望-停滞色強まる2003年アメリカ・欧州・アジア経済

2003年01月25日 調査部 経済研究センター


要約

  1. 2002年初から秋口にかけての世界景気回復は、アメリカにおける一部分野(自動車・住宅)の好調に依存する形で実現。しかし、秋以降、自動車需要の頭打ち、「地政学的リスク」の強まりを背景に、アメリカ景気の先行きに不透明感。世界景気回復の持続力に対する疑念がくすぶる状況。

  2. こうした状況下、2003年の世界経済を展望する際には、以下の六つの論点について検証する必要。
    (イ)グローバル・マネーフローの変貌
    欧米株価の水準訂正が相当程度進んだなか、国際資金取引の一段の縮小は回避される見込みながら、90年代後半のような急拡大に転じる見込みも薄い。こうしたもとで、不安定なグローバル・マネーフローが、a.ドル安、b.新興市場の金融・経済不安、などの形で、世界経済に様々な悪影響を及ぼすリスクあり。

    (ロ)くすぶる「地政学的リスク」
    遠からず現実化するとみられるアメリカの対イラク戦争が、1~2カ月の「短期決戦」で収束する場合は、世界経済への追加的影響も限定的。しかし、周辺諸国を巻き込む形で長期化すれば、a.アメリカの財政赤字拡大懸念を通じた長期金利の上昇、b,原油価格の上振れ、c.マインドの著しい冷え込みと株価下落のスパイラル、の三つのルートで世界経済を大きく下押し。

    (ハ)アメリカ:資産価格動向と実体経済への影響
    株価は、一段の水準訂正が生じる余地は小さいものの、大幅な戻りも期待薄。住宅価格は、金利や在庫率の低位安定が「防波堤」となり、急落は回避可能であるものの、足元の強い騰勢が次第に弱まることは不可避。こうした資産価格動向は、家計需要堅調の基盤-住宅価格上昇が住宅ローン借り換えなどを通じて手元資金の増加をもたらし、所得減少や株価下落に伴うマイナス影響を減殺-を徐々に侵食していく可能性大。

    (ニ)ユーロ圏:財政規律緩和を巡る動きとECBの対応
    a.通貨ユーロに対する信認低下の恐れ、b.ECBの金融緩和にもブレーキをかけかねないことから、財政規律緩和を巡る議論が拙速に進められる公算は小。ユーロ圏の財政・金融政策が景気情勢に応じ機動的に発動される状況になるまでには、相当の時間を要する見込み。少なくとも、各国による財政運営は当面、やや緊縮的とならざるを得ない見通し。

    (ホ)アジア:域内貿易の拡大をどうみるか
    NIEs ・ASEAN では、輸出主導の景気回復が実現するなかで、中国経済の動向に左右される傾向が強まっている。中国経済の発展は、当面の景気に対しては、域内貿易の拡大を通じて引き続きプラスに作用。しかし、中国の担う生産工程が広がっていくにつれ、周辺諸国の産業基盤が侵食される、といったマイナス影響も徐々に顕在化していく見通しであり、中長期的観点からの各国の対応が問われよう。

    (ヘ)「世界同時デフレ」は生じるか
    アメリカや欧州先進国の多くは、経済のサービス化が進み、新興工業国の台頭に伴うデフレ圧力への抵抗力を強めている可能性。「世界同時デフレ」突入の可能性を当面のリスクとして過大視すべきではない。ただし、a.政策発動の機動性、産業の新陳代謝機能、金融機能がいずれも低下しているドイツ、b.中国に製造基盤を切り崩され始めている一部のアジア諸国などは、他の国・地域に比べデフレ突入のリスクが大きい。

  3. 以上を総合すると、2003年の世界経済は、1~3月期中にも開戦が見込まれる対イラク戦争が1~2カ月程度で収束し、その影響も限定的にとどまる、との前提を置いても、アメリカ景気の低空飛行を主因に、総じて停滞色の強い展開が見込まれる。
    (イ)アメリカ…イラク問題の影響で年前半に振れが出るが、基本的には、住宅価格の騰勢鈍化、資金調達環境の厳しさなどが、景気回復力を減殺。夏場以降、調整色が明確化する見通し。

    (ロ)欧州…ユーロ圏は、輸出の伸び悩みに加え、経済政策・労働市場の硬直性が回復の足かせに。そうしたなかで、ドイツの低成長が一層際立つ見通し。イギリスは、ユーロ圏を幾分上回る成長が期待出来るものの、徐々に減速へ。

    (ハ)アジア…暦年ベースの成長率は、全域にわたり2002 年とほぼ同水準。しかし、内需拡大に不安材料がくすぶるNIEs ・ASEAN は、年後半スローダウンの公算。

    世界主要国・地域の実質経済成長率見通し

    (資料)各国統計をもとに日本総合研究所作成



  4. さらに、a.国際資本取引の一段の縮小、b.対イラク戦争の長期化・戦線拡大、c.アメリカの「住宅バブル」崩壊など、想定以上の下振れを招きかねないリスク・ファクターに要注意。
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