コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

公的組織の人事制度改革担当者について

2004年11月08日 石川洋一


 本稿は昨年10月6日付で本コラムに書いた「自治体における人事評価制度見直し時の留意点」の続きである。今回は、自治体を主体とする公的組織において人事制度改革に携わる人事管理担当者に関し“気になる点”に言及したい。長らく民間企業向け人事管理コンサルティングに携わり、最近の数年間は公的組織(自治体、独立行政法人等)をも並行してコンサルする筆者としては、両部門の担当者をどうしても比較してしまう。
 私がコンサルティングの場で接するのは総務局・部、人事課(職員課)、研修所、改革事務局等に属する係長~課長(補佐)層であり、地方分権や公務員制度改革、独法通則法等を背景に人事管理制度(現段階では評価制度の領域が主体)の再設計・創設の第一線で汗を掻いている方々である。

 第一に、“民間企業の人事管理では~をやっているから当組織でも‥‥”という観点で思考・説明する例が少なくない点である。
 公的組織の人事管理は長きに亘り年功的世界に浸り続けてきたから評価制度を含む人事管理全般についてのノウハウの蓄積は多くはない。また前例があると、殊更安心する方々でもあるから、民間企業の事例を参考情報と位置付けるのは不自然ではない。
 だが、この参考情報の取り扱いに危うさを抱く時もある。人事管理の領域では、“一つの目的の基に設計された制度”と“実態・実質を形づくる運用”には大きな乖離があることが少なくない。公開情報やインターネット情報で制度概要はわかっても、実際にどの程度機能しているのか(させたいのか)、本音ベースの狙いとは何か、外からは殆ど見えない。この点を深く考慮せず、“民間企業で長年広く採用されている~制度”という言葉を冠して単純に捉えるのであれば、そこにズレが生じるのではないか。
 一方、民間企業では評価制度と賃金制度をセットで改革していくのが通例であるが、この点については民間企業を参考とはせずに、“諸般の動向を睨みつつ今後時間をかけて転換していく”とする。公と民は人事管理の歴史や経緯が異なることは理解しているが、都合のよい部分だけを民間企業の事例から切り取って説明しているのではないかと思いたくなる時もある。

 第二点として気になる点は、概して同業である他の自治体・公的団体の制度見直し事例を細かい点まで内部資料も取り寄せ情報収集している点である。ある意味では非常に研究熱心であるといって良い。
 民間企業の場合、同業とは全て競合関係にあるから、競合先の詳細な人事管理制度情報について探りを入れても相手先から返ってくる情報は期待できないし、仮に聞かれても懇切丁寧に教えるような人事管理スタッフはいない。この点については、公的組織間では売上・シェア争いという関係にはなく、また情報開示の観点もあり、人事管理資料の提供とかヒヤリング・視察等に応じることは珍しくないようだ。
 しかし人事管理・評価制度の導入や運用実績に関しては各自治体や団体間で差異はあるのだから、全く同一の制度や改革手法をコピーすれば良いという考え方は有効ではない。機能するかは二の次で、とにかく制度を導入しさえすれば良い、存在するだけでかわせる、等と考える人事管理担当者には遭遇しないが、その思いのほどについて若干分からなくなる場合も時としてある。
 策定された制度と実質をつくり出す運用の違い、改革前の既存制度の状況、新制度の導入・確立・立上げにかけられる手持ち時間等々、光も影も、表も裏も、最終もプロセスも、全て押さえ、それでは我が組織に適用する場合はどうなのか、となるはずであるが‥‥。

 第三に、人事管理担当者の中には公的組織として斬新な最新の制度の研究にエネルギーを注ぐあまりに、現実の実態そのものへの関心が疎かになる例もあるようだ。もっとも、逆のケースも困る話ではあるが。
 最新にして斬新な評価制度を作るのは面白いし熱が入ることは当然ではある。しかし、現制度から新制度へ円滑に移行できてこそ、そして上手く立上げ運用できてこそ、担当者諸氏が思い描いた理想状況が始めて実現することは留意したい。人事評価制度に限定して言えば、評価制度を実際に機能させていくのは総務部や人事課に居る優秀な人事管理担当者ではなく普通の管理監督層の方々である。人事管理・評価の知識は中途半端で人事管理・評価業務は余分な仕事と考えているケースが大部分であろう。だからこそ、策定すべき制度の研究と共に、移行・導入プロセスや管理職層のレベルアップといった、制度の趣旨を実現するに至る諸ステップ(通常、ドロドロしエネルギーを費消する)へも心をくだいて欲しい。またモミクチャになりながらも具体的に行動して欲しい。
 制度は実際に使えて狙い通り機能しなければ意味がないのであり、新人事管理・評価制度の導入後、早々と形骸化し、評価表の事務処理だけが意味もなく淡々と続けられることが無いよう願いたいものである。

 どうやら、冷ややかな目で公的組織側にいる人事管理改革担当者を見すぎたかも知れないが、彼らは悉く研究熱心であり改革意欲は旺盛であり、この点については民間企業側にいる人事管理担当者以上である。また、現状を是認しがちな年配のスタッフに対して若いスタッフは常に純真・過激であり、改革作業の負荷を厭わない。この構図は民間企業の場合と大差が無いのは面白い。
 昨秋、ある自治体で職員意識調査をお手伝いする機会を得たが、自己の仕事の結果や努力する姿勢をキチンと評価されるべきことへの反対は殆どなかった。現状の人事管理スタイルをうっとうしく感じている自治体職員は多数いるのではないか。人事管理・評価制度の改革・変更は最終的には職員一人ひとりの意識や職務行動に影響を与えてしまう。公的組織に属する方々の働きがい、組織の活力の確保、効率良い組織運営が、自然な形で、かつ同時に両立できることを切に願うものである。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ