コラム「研究員のココロ」
「中期経営計画システム」は機能していますか?
~経営改革ワンポイントアドバイスシリーズ(No.4)~
2004年11月01日 芦田 弘
経営改革クラスターが携わったコンサルティング事例から、課題解決に効果が高かった視点・手法を、ワンポイントアドバイスの形でご紹介しております。詳細については、クラスターに直接お問合せください。
1.計画のための計画づくり
中期経営計画(中計)を策定している企業は多数存在します。「中計を拝見させてください。」とお願いすると、経営方針にはじまり部門別の細かい計数計画まで示された分厚い資料を見せていただくことがあります。一見すると、大変よくできた計画書に見えます。
そこで「過去にお作りになった、これ以外の中計も見せてください。」と依頼して内容を比較すると、よく似た方針や施策が並んでいます。内容のマンネリ化です。さらに、これまでの中計目標の達成状況を調べると、一度も達成したことがないというケースすらあります。中計は「絵に描いた餅」になっていたのです。
そして、社員は、こうした自社の中計に疑問を持ちながらも、策定時期が来ると膨大な時間をかけ、中計資料づくりを繰り返しているのです。
そこで、今回は、中計が本来の機能を発揮するためのワンポイントアドバイスをまとめてみました。
2.積み上げ方式に問題あり
部分的、短期的な視点で論ずる『戦術』に対し、『戦略』の要件は、全体性と中長期性であると言われています。したがって、全社的・中長期的観点から策定する中計の本質的機能は、経営戦略計画です。ところが、計数を重視する企業は、各部門から数字を出させて、それを積み上げて中計を策定します。積み上げ方式では、中計内容がマンネリ化しやすくなると同時に、総花的になるので経営資源が分散し目標達成の可能性も低下します。
そもそも、『戦術』をいくら束ねても『戦略』は生まれません。経営戦略、すなわち将来目標(ビジョン)とそこへの到達手段・シナリオをトップダウンで描き、それを経営計画にまとめるのが中計のあるべき姿です。
3.若手社員の参画が不可欠
だまっていても、これまでの延長線上で、経営が発展し続けるならば、中計は不要です。経営環境が変化する中で、新しいことにチャレンジし、企業を革新することが求められているからこそ戦略的な中計が必要になるわけです。
革新的な中計の策定作業には、若手社員の参画が不可欠と考えます。ある企業で、30歳代、40歳代、50歳代のチームをそれぞれ作り、各チームが10年後の企業像の練り直しについて検討しました。50代は「既存事業の改善」40代は「緩やかな事業整理を目指す改革」30代は「成長分野への経営資源の集中を急ぐ革新」を提案しました。社長は30代の提案を採用し、結果的には、大成功しました。
4.業績評価にも工夫が必要
多大な時間をかけて策定した中計が「絵に描いた餅」になってしまう要因のひとつに短期業績重視の問題があります。社員が、目先の目標数字にばかり追われると、中計で掲げた戦略課題は二の次にされ、結局積み残されてしまいます。また、部門間のセクショナリズムが高まりやすく、そうなると部門横断的な中期的課題の解決にも支障をきたします。
したがって、社員の中計に対する理解度および取り組み意欲を向上させるためには、業績評価において、短期的成果の評価もさることながら、中期的プロセスの評価も加味することがポイントになります。
5.マネジメント・システムとして機能させる
中計がうまく機能していない企業にみられる共通点のひとつは、中計の評価・見直し(ローリング)が行われていないことです。たとえ練りに練った経営戦略でも、予期せぬ外部環境変化が起きれば、基本目標は変えないまでも、達成手段を見直さねばならないケースがあります。その結果、当初の計画以上の経営資源投入が必要になることもあります。こうしたマネジメントを怠ると中計と実績は、大きく乖離したまま放置されてしまいます。中計は策定したら終わりではなく、中計マネジメント・システムとして機能させることが重要です。
6.経営企画機能の強化
中計がうまく機能していない企業にみられるもうひとつの共通点は、経営企画機能が弱いことです。こうした企業では、経営企画部のスタッフが、計数の全社集計にのみ追われています。
これまで述べてきたように、中計が本来の機能を発揮するためには、戦略立案機能(前述2.項3.項)と戦略マネジメント機能(前述4.項5.項)の充実が求められます。そして、この役割を果たせるのは経営企画部門を措いて他にはありえません。
ただし、ここで言う経営企画機能の強化とは、事務的負荷を解消するために、人数を増やすことではありません。経営戦略の立て方および中計マネジメント・システムを考案でき、出来上がったシステムの運用定着化を図るための知恵も出せ、社内を飛び回る行動力も備えた有能な人材を1~2名投入することを想定しています。
7.おわりに
もし、中計に「マンネリ化」や「絵に描いた餅」の兆候を感じたら、中計システムを革新し、中計に本来の機能を発揮させ、新たな飛躍に挑戦することが大いに期待されます。