企業における情報システムは、手作業をコンピュータによって効率化するOA(オフィス・オートメーション)化から、ITを活用した抜本的な業務の改革を伴うものに変化してきている。業務改革を伴う情報システム構築もしかり、新しいコンセプトを持つ情報システムの導入もしかり。これらの情報システムに対しては、新たなものに対する意識的無意識的を問わない抵抗感が存在し、困難を引き起こすことがある。
しかしながら、十分な事前準備と妥当なステップを踏むことで、それら困難は回避できる。いくつかの業務改革プロジェクトや情報システム再構築プロジェクトの経験をもとに、情報システムの設計・構築・導入をスムーズに行うための5つのポイントを具体的な方策とともに2回にわたりご紹介したい。
これらの項目は、ごく当たり前のことと思われるかも知れない。しかし、現在、情報システムの企画・構築を進めている方は、今一度、チェックしてみていただきたい。
目的を明確化し共有できているか
さて、今回あなたが導入しようとしている情報システムは何を目的として導入されようとしているのだろうか?
業務改革を実現するための基盤としての情報システムであったり、ナレッジ・マネジメントを実現するための情報システムであったりするのかもしれない。では、その「業務改革」や「ナレッジ・マネジメント」は何を目的として導入されるのだろうか?
あなたが導入しようとしている情報システムが業務を現状のままシステム化するのではないとすれば、現状業務を変えようとする、あるいは新たな業務を追加する何らかの正当な理由があるはずである。それを曖昧なままで進めていくと、いつしか違う目的にすりかわったり、期待した効果が出なかったりする。
従って、情報システムの構築にあたってその目的を明確化し共有する視点が必要なのである。それも決して一部のメンバーだけではなく、ユーザーを含めた関係者全員に対する共有・合意を得ておく必要がある。
目的を明確化し共有することは主に以下の3つのメリットがある。
◆当初の想定した効果を得るために最適な仕組みを設計できる
◆システムに盛り込むべき業務要件の優先順位の判断がつきやすい
◆業務の変化に対する現場の納得度が向上する
システムを設計する側も業務要件を出す側も導入の目的について共通の土壌があると、本質的な議論に入りやすい。議論の中で「その仕組みは目的達成のために最適な方策なのか」という問いを何度も持ち出すことで、目的に合致し効果を発揮できる最適な仕組みに近づける。
また、目的がはっきりすることでシステム要件へ盛り込むべき業務要件を取捨選択しやすくなる。現状の仕組みがどうであろうと、目的に照らせば将来の業務はこうあらねばならないという視点で判断が出来る。システム構築にはスケジュール、コスト、品質等の制約条件が多数存在する。その中でより良いものを作り上げていくために、目的への合致を条件に絞り込んでいくことが必要である。
目的を共有化することは、現場に納得を与えることにもつながる。大義名分を掲げ、それを御旗の印として進めれば、現場も導入時の業務の変化や多少の不便さを我慢することができる。一方でシステム構築プロジェクトはその目的を実現する責を負うことになる。それ故、社内からの「本当にそれで良くなるのか」という疑問に対し「絶対に良くなります。そうなると確信しています。」と胸を張って答えられるくらいの自信が必要なのである。そうすることで現場は「そこまで言うのなら改革に乗っていこう」という気になる。そしてそれ程の自信を持つためには、プロジェクトの方向性や目的についてメンバーで考えに考え意見を戦わせ議論を尽くすしかない。
では、目的を『明確』にし『共有』するには何が必要だろうか。変革の目的には以下の3要素がある。
◆的確な現状把握、問題認識
◆課題とそれを解決するための方針
◆効果・メリットとデメリットや必要コスト
もう少しやわらかく書くと、以下のようになる。
目的の共有化というと2番目の『課題とそれを解決するための方針』や『効果・メリット』ばかり強調され、その前段の現状認識や変えることのデメリットが示されない例が多い。現状認識が合っていないと「何で変えなければいけないのか」という疑問がついて回り、変革の必要性についての合意を得ることは難しい。あらかじめのデメリットの提示がないと、変革後に目に付いた欠点は満足度を低めることになる。
そこで前述のような論理展開を踏んで、目的を『明確』化し『共有』する必要がある。
前提となる現状認識が一致できれば、現場を含めた関係者一同の変革への意識を高めることにつながる。そして「問題はわかった。で、どうすれば良いの?」という疑問に答えるために、次の「何をどのように変えていくのか、どう解決していくのか」という変革の方針を示す必要がある。その上で「変えた結果どうなるのか」をメリットとデメリットを含め説明する必要がある。良い面ばかりでなく悪い面も含み置いておくことが、のちに現場が不便を感じた時の緩衝材となりうる。
情報システムの利用が日常業務の流れの中に組み込まれているか
変革に対する意識が社内で共有された後、次に留意すべき点は情報システムの業務への組み込みである。変革の方針や方策、コンセプトを決めた後、次のステップとして情報システム設計・構築に入るプロジェクトも多いだろう。しかしそれでは変革が定着しない恐れがある。現状をベースにした情報システム構築とは異なるステップが必要である。それは新業務の設計ないしは、業務の再設計である。
業務の変革を伴う場合、従来の業務の延長線上ではなく、新たに業務を定義しなおす必要がある。こうしたケースにおいては、情報システム構築担当者がユーザー部門へシステム化すべき業務を聞いたとしても、参考となる業務が今現在存在していないのである。
では誰が新業務を設計するのか。情報システム構築担当者だけでは力不足だろう。ユーザー部門担当者加わって対応出来る場合もあるが、システム構築のスケジュールが厳しいと、新業務を十分に検討する余裕はなくなる。この検討が不十分だと、出来上がった情報システムは現状業務を踏襲したものになるか、あるいは日常業務の流れとは関係なく情報システムが出来上がるかのいずれかとなってしまう。
変革の目的から外れた現状業務踏襲型のシステムは十分な効果を出せず、変革への期待を持っていたユーザー部門の不信を招くだろうし、日常業務の流れから外れた情報システムは利用頻度が次第に下がり使われないシステムと化してしまうだろう。
そのようなことがないように、情報システム開発の前提として、しっかりとした業務設計が必須である。
そしてそこでは、
1) 新たな業務の流れは目的を達成するのに最適となっているか
2) 関連する日常業務の流れの中に如何に違和感なく組み込むか
3) そして、業務の中でシステム化すべき部分はどこか
という手順で進められるべきである。最初に業務の流れありきで、それをシステム化するという手順である。そうすることで、ユーザー部門に使われやすく変革の目的を達成できるシステムとなりうるのである。
次回は、後半3つのポイントをご紹介する。