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コラム「研究員のココロ」

活動人口とMEA

2004年06月07日 


 前回、「見識と志が問われる次期総合計画」というタイトルで、人口減少社会を目前にした次期総合計画の基本姿勢について述べた。

 今回は、政策立案における具体的な視点として「活動人口」と「MEA」という2つのキーワードを提示したい。

 まず「活動人口」であるが、これは、職業の有無に拘らず、「社会的・生産的活動」を行っている人口を意味する。人口減少社会では、当然、社会的活力の低下が懸念されるため、何らかの活動を行う人を増やすことでその低下を食い止めようと言うわけであるが、(1)内的・個人的活動を社会的な活力を生み出す活動(=社会的・生産的活動)につなげていくという視点を重視する、(2)とりわけ今後10年間は、いわゆる「団塊の世代」の大量退職によって人口全体の減少よりも生産年齢人口の減少による活力引下圧力が大きいと予想されるため、これら団塊の世代を重点対象とする、という点がミソである。
 具体的な政策メニューとしては、例えば、事業型NPOの育成などが考えられる。事業型NPOが営利企業と並んで社会的活力の源泉に成り得ることは、欧米等における実例からも指摘されてきたところであるが、わが国の場合、事業ノウハウを持った人材やファンド(資金)の貧弱さから、なかなかリスクを取った、つまり、生産的リターンの期待できる活動展開ができないという状況が続いている。これに対し、「団塊の世代」の大量退職は、実務経験に基づいた事業ノウハウとある程度の経済的余力を持った人材の供給という意味で、非常に魅力的な現象であり、うまく誘導できれば、わが国における事業型NPOの展開を通して、新たな社会的活力を生み出すことが期待できる。また、この世代では地元回帰・自然回帰への志向が強まっていることから、農業や観光・環境・福祉・教育といった分野を中心とした地域活性化への寄与も期待したい。

 一方、MEAには、More Emergency Alternative =「より緊急度の高い選択肢」とMore Effective Alternative =「より有効な選択肢」の2つの意味がある。法律を学ばれた方はよくご存知のように、法律の合憲性を判定する際の重要な基準としてLRA(less restrictive alternative:より制限的でない代替手段)があるが、MEAは、これに倣って、施策や事業の選択に際して、緊急度や有効度の高さを徹底的に追及しようというわけである。
 人口減少とともに、今後、特に地方財政は更に厳しさを増すものと予想されるが、その中で効率的な政策展開をしていくには、如何に事業を絞り込んでいけるかが極めて重要になる。
 その意味でいわゆる事業評価制度への期待が大きいのであるが、現在の事業評価制度の多くは、コスト把握や成果の定量化に目が奪われ過ぎているように見受けられる。しかし、行政の事業は、基本的には、できるのであればやったほうが良いものばかりであり、いくらコスト把握や成果の定量化を精緻にしても、それだけで事業を絞り込むことはできない。
 事業を絞り込むには、事業をしない場合の影響や事業を行った場合の効果を「本当に今やらなければならないのか?」「得られる効果はどのような意味を持つのか?」という視点から、できるだけ具体的・客観的な情報に基づいて「比較考量」することが重要であり、そのためには、MEA視点からの事業評価制度の再構築とともに、AHP(Analytic Hierarchy Process:階層化意思決定分析法)などのオペレーションズ・リサーチ的アプローチの活用が必要である。

 以上、2つの視点を提示したが、例えばプライバタイゼーションによる行政から事業型NPOへのシフトという文脈で相互を関連させることも必要である。また、ストックを積み重ねるという「プラス」一辺倒の思考から、積極的にストックを軽くするという「マイナス」の思考も求められる。現在、このような考え方にご賛同いただいた自治体とともに、活動人口とMEA概念を導入した総合計画を策定中である。結果については、後日改めてご紹介したい。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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