コラム「研究員のココロ」
成果主義人事制度を成果あるものにする上で、忘れてはならない視点(前編)
2004年04月19日 水間 啓介
1.人材は“資産”ではなく、“資本”であるべき!
人材を他の資産と同等に扱うようになると、経営観は人間的な温かみを失うようになります。人材は他の資産とは異なり、感情を持ち、言葉一つで勇気づいたり、落ち込んだり、これほど扱いにくい資産はありません。いや、そもそも“資産”として扱うこことが考え違いであると考えます。むしろ“資本”と考えるべきなのかもしれません。
“資産”という考え方であれば、人材を他の資産と同列で扱うことになり、企業にとって時々の状況の中で、必要な人材を効率良く獲得するという視点で捉えることになりかねず、人材を動機付けたり育てるという観点が薄くなります。一方“資本”という考え方をとれば、人材を企業価値創造の源泉であるとする見方に変わってきます。個別の顔を持った人材が最大の価値をもたらすように、それぞれの特性に合った方法で動機付けて育てようという考え方になります。すなわち人材を他の経営資源よりも上位に置く視点が生まれてくるわけです。
人材という経営資源は動機付けられてこそ最大の能力を発揮し、成果をもたらすものであり、“資産”ではなく“資本”という観点で人材を捉えるべきものと考えます。
2.アメリカ流の経営管理手法は、“枠組み”のみならず、“理念”を踏まえて導入すべき!
目標管理制度をとりあげれば、多くの企業が社員に目標を立てさせて、期末に目標の達成状況を評価し人事評価に結びつけるという仕組みを導入しています。しかし、ドラッガー氏の唱えた、目標を手段として活用することで自立的人材になることを目的とする(Management By Objectives and self-control)という理念が忘れ去られて、手段自体を目的化して目標管理の枠組みのみを導入しているという例を見聞きします。PDCAのマネジメントサイクルを回せるような自立的人材が育っているという状態でこそ、目標管理の本来の導入成果が出ているということかと思います。
また一方で、目標管理制度が成果主義人事制度の申し子のように唱えられ、目標管理がうまくいっていないから成果主義はそぐわないという論議がなされることがあります。目標管理制度を、専ら人事評価のための道具として導入しているという視点が少しでもあると、目標管理はまさに「目標を管理する」という視点に囚われ、むしろ「目標に管理される」という実態が生じかねず、ドラッガー氏の意図した「and self-control」とする観点が生まれてきません。
また、最近ではBSC(バランストスコアカード)の4つの視点(財務・顧客・内部プロセス・学習成長)を採り入れた目標管理制度の導入を図っている例が増えています。企業の業績に直結するように、目標の立て方の時点から見直している点で、効果が期待できると考えますが、やはり背景にある理念を踏まえた導入が望まれます。
BSCの理念は、現在の「財務」的な結果は過去の「顧客」に商品・サービスが受け入れられた結果であり、顧客に受け入れられるにはそれ以前の商品の生産およびサービスを提供する「内部プロセス」が優れていたためであり、更に遡って、優れた内部プロセスを提供した、優れた「人材」の存在があるという視点をもたらした点で画期的なものです。そこに横たわる理念は、長期にわたる時間軸の中で成果を捉えなくてはならないということです。従って当年度の目標を4つの視点で立てる際には、中長期の経営計画および目標を立てた上で当年度の目標に落とし込むという姿勢が必要で、こうした理念を忘れて単に4つの視点で当年度の目標を立てて管理するという方法では、BSCの理念を活かすことができないと考えます。
多くの経営手法がアメリカで生まれ、洪水のように日本に押し寄せますが、手法を導入するだけですべてうまくいくほど、現実の経営はたやすいものではないことは自明のことですし、日本の風土に合った形で導入すべきであることもまた勿論ではありますが、理念についての議論を十分せず、他社追随の一点ばかりで枠組みのみを追い求める姿勢は好ましくありません。目標管理およびBSCにしても、その背景にある理念に従って運用することが大事で、単に枠組みのみ導入しても、期待される導入成果に程遠いものになりかねません。(後編に続く)
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。