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コラム「研究員のココロ」

これからの人事管理について
~キャリアデザインの視点より~

2004年03月29日 君島 一雄


1.これからの付加価値創出のあり方

 バブル崩壊後、90年代以降の長い不況期を経て、さらには中国という従来にない強大なコスト競争力を持つライバルとの競争に晒されるようになっている今日、多くの日本企業において、単なる景気循環による回復に頼るのではなく、従来までのやり方とは別次元の“知識ベースでの競争時代”に合致した、新たなビジネスモデル構築の必要性に迫られている。
 日本企業並びに日本人ビジネスパーソンが、今後ともグローバルでの競争の中で生き残っていくためには、下記3点が重要ポイントになると思われる。
  1. 従来からの日本企業の強みである、チームワークを生かしたマネジメントは今後とも重要ではあるが、それだけでは日本の20分の1とも言われる人件費の中国に対抗することは不可能である。知識ベースでの競争に打ち勝つための戦略や組織・人材のあり方が問われている。


  2. 知恵を生み出し独自の付加価値を提供できるためには、単にナレッジを共有するだけではなく(ナレッジの共有はインフラとしては必要ではあるが)、価値を生み出せるような人材の力を最大限経営の中に取り込むためのマネジメントの枠組みが必要となる。


  3. 換言するなら、「社内や業界で当たり前の考え方」「社内のマジョリティーが信じている常識」などに囚われることなく、顧客が具体的に求めているもの(ニーズ)や顧客が潜在的に欲しているもの(ウォンツ)に応えることができるサービス・商品や技術を生み出し提供するための創造的で付加価値の高い仕事を行う人材が多数必要となるのである。


2.知識ベースでの競争の時代と人材マネジメントのあり方

 これからの人材マネジメントのあり方を考えるに当たって、「(1)経営モデルの転換」「(2)新しい経営モデルを担うコア人材」「(3)創造型人材のあり方とキャリアデザイン」の3つの視点から整理してみたい。

(1)経営モデルの転換 

 あるべき姿を示し、それに向けて社員の努力を促す従来型の人材マネジメントを、「外的基準による人材マネジメント」と呼ぶことができる。「外的基準による人材マネジメント」とは、「望ましい状況に向けて人を管理すること」と言いかえることができ、人材をマネジメントするに当たって、「こうすることが望ましい」「こうすべきである」といった様々な基準を設け、それによって人材を管理することを言う。「シェア何%をめざす」「○○技術を導入する」「△△を他社に先んじて製品化する」「□□のコストを何%下げる」といった、企業が求める達成基準(=経営計画)を目標管理や人事考課の仕組みを使って組織的に展開することにより、全社員が懸命にがんばることにより業績を上げるマネジメントを指すのである。
 もちろん、この外的基準をベースとしたマネジメントが今後とも重要であることは変らないものの、その重要性が相対的に下がり、代わりに、「企業としての独自性を打ち出せる商品やサービスを生み出すプロセス」や「創造性を発揮できる人材のマネジメント」に焦点を当てた組織・人事管理が今後の重要課題となるのである。
 人材マネジメントの実際のあり方を検討するに当たっては、全ての人材に対して創造的な仕事を行うことを期待するのでなく、創造力を発揮することができる人材のアイデア・知恵を見極め、これを最大限経営の中に取り込む一方、従来型のマネジメントも併行して行っていくというイメージでとらえる必要があろう。人材タイプで言うと、事業のアイデアを具体的な形にするアントレプレナー型人材と新規事業から既存事業まで事業構造全体をマネジメントすることのできるマネジメント型リーダーを中心にビジネスが展開される形となる。

(2)新しい経営モデルを担うコア人材

 これからより大きな貢献が求められるようになるアントレプレナー型人材、すなわち、創造力溢れる人材とは、外的基準にとらわれることなく、自分自身が率直に感じた疑問点や自分自身が設定した課題を基に行動する人材である。こうした人材は、従来の概念にとらわれることなく、新しいビジネスモデルを創出することのできる人材であり、新技術・新機軸を打ち出したりするに当たって牽引車となって活躍する人材である。
 こうしたアントレプレナー型人材は、経営的な視点に立って何をやるべきなのか(何をやるべきでないのか)を総合的に判断するマネジメント型人材と共に、これからの企業のコア人材群を形成することになろう。
 こうしたコア人材群は、企業の競争力の死命を制する役割を担うようになるため、経営者は従来以上に高額の報酬を支払うようになるだろう。一方、従来型の定型業務や繰り返し業務は、派遣社員やアウトソーサー或いは、中国などからの製品輸入という形で業務が代替される脅威にさらされるため、賃金水準は下がらざるを得なくなるだろう。成果主義により従来の年功型賃金体系が崩壊しつつあると言われるが、以上のような背景により、今後は、賃金格差はむしろさらに広がっていくと考えるのが自然ではないだろうか。
 これからの人材マネジメントにおいては、こうした様々な動機を持った多様なヒト(すなわち、「何かを生み出す人材」から、「普通の人材=与えられた条件の中で求められる役割を果たす人材」)の管理をいかに効果的に行うかが重要なポイントとなるのである。

(3)創造型人材のあり方とキャリアデザイン

 キャリアデザインという言葉が最近知られるようになりつつある。自分自身の内なる声、すなわち仕事を通じて何を望んでいるのかに気づくことにより、自分が最も力を発揮する方向性を知り、それを仕事人生の節目節目での進路選択や生涯労働全般に渡ってのキャリア形成の指針づくりに役立てようとする考え方である。
 各個人において、キャリア形成のベースとなるもの、すなわち、個々人において仕事を行う上で、内面に持っている価値観をキャリアアンカーと言う。自らが職業人として、何を求め自分自身の内なる部分がどの方向に向かっているのかを知ることは、極めて重要なことである。ソクラテスは「汝自身を知れ」と言ったが、我々ビジネスパーソンにあっても、自らの職業人としてのあり方を考える上において、自らのキャリアアンカーを知ることは極めて重要であるということを強調しておきたい。
 一人一人が自らのキャリアを考えることが重要になりつつある今日、各個人においては、キャリアアンカーという自分の内なる声に耳を傾けると同時に、それぞれの仕事人生の中でどう生き残っていくのかという戦略を持つことも必要となる。自分自身の中にある「こうしたい」「こうありたい」という内なる声に気づき、それを大事にすると同時に、日常の現実の仕事の中で自分自身のキャリアをどう育てていくかという戦略を持つことも大事になってくるのである。エドガー・シャインは、これをキャリアアンカーとキャリアサバイバルの2つの考え方で示している。
 以上述べたことは、企業にとっては多様な人材のマネジメント手法の開発が従来になく重要になることを意味し、各個人にとっては、自らのキャリアをデザインするための自律性がより一層求められる時代になることを意味する。企業に人事制度のあり方を提案する立場の筆者としては、以上の観点に立ってより深い洞察を持ち、今後の企業と個人との健全な関係をもたらすような人材マネジメントの枠組みづくりを提案していきたいと考えている今日この頃である。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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