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コラム「研究員のココロ」

「強い人事部をつくる」<前編>

2004年02月02日 青木昌一


 多くの企業が昨今の経営環境のなかで管理部門の縮小を実行している。これから論じる人事部あるいは人事課(以下人事部という)はその管理部門の最たるものだと言えるだろう。それだけに人事部の少数精鋭化つまり少数でも筋肉質で強い人事部をつくるということが企業にとって大きな課題となっている。

1.人事部員のポテンシャル

 どこの企業においても人事部というのは経営に極めて近い存在である。その企業の経営戦略立案・人材マネジメントに密接にかかわるのが一般的である。人事部が会社のエリートと言われる所以であり、事実人事畑出身の社長という人は少なくない。また、本稿をご覧になっている様々な企業の現役人事部員の方の中にも、人事部に配属になったときに知人や親戚等から「あなたはエリートなんですね」と言われた経験をお持ちの方が数多くいることは間違いない。
 新卒社員の配属においても人事部に配属されるのは概して入社試験あるいは採用面談において評価の高かった人材が多い。なにしろ多くの企業において採用面談や採用事務局は人事部なのだから、少しでも良い人材を人事部へという行動は至極当然のこととも思われる。事実我々人事コンサルタントがお付き合いすることの多い、企業の人事担当者の方々に接していて、そのポテンシャルの高さに舌を巻くケースも少なくない。

2.現場を知らない人事部員

 しかし、人事部という組織として優秀な社員を囲い込みたいとの意識があまりにも強すぎると、人事部に配属されて以降、他の部署を経験せずに中堅まで至ってしまうことがあり得る。人事部のなかで純粋培養され、その結果自社の本業の実務をまったく知らない中堅社員が生まれるのである。いくら戦略立案に長けた優秀な人材であろうとその会社の本業を身を持って体験することなしには本当に事業のキモとなることが何なのかつかむことは容易でない。
 また、一般的に社員は自社の人事部に対してあまり良い印象を持っていないケースも多い。人事部は自分たちの仕事について何も分かっていないというバイアスがかかった目で見ているからである。人事部への期待が大き過ぎて、人事部にまったく落ち度がなくても以下に例示するような不満が人事部への不信感を増幅させてしまっている。
・ 自分たちの要望に対してちっとも応えてくれない。
・ 現場に対して忙しいときに手間のかかることを指示するが多い。
・ 人事部員はなかなか現場の社員とコミュニケーションを持とうとしない。
・ 規則やルールにそった対応を心がけるあまり、木で鼻をくくったような対応しかしてくれない。 etc.

 スペシャリストが尊ばれる時代なのだからずっと人事部に所属する人材がいても良いではないかという声も聞こえてきそうだが、その企業の事業を知らずして人事のスペシャリスト足りえることは非常に難しい。制度改革を実施するときや人事施策を実行するなかでスタッフとして瞬間的に重宝がられる場面はいくつかある。しかし、長い目でみたときに戦略スタッフとして持てる能力を発揮できる機会はとても少なくなってしまう。なぜなら社員のホンネの情報が届きにくくなると同時に、自社の事業を知らないが故に自社の本当の問題点が何かを察知するために必要な基準が持てないからである。
 また、人事部が社員の支持を得られないということは企業の経営効率を悪化させることにもつながりやすい。人事部がやろうとすることにすべてマイナスのバイアスがかかってしまう。改革が改悪としてしか理解されず、社内の士気が失われてしまうのである。実際問題として現在のような経済環境下では社員にとって痛みを伴う改革が多い。しかし、それを改革であり未来への投資であると受け取られるか、改悪であり社員を苦しめるばかりの施策であると受け取られるかで効果はまったく異なる。そういう意味で人事戦略上、人事部への社員の信頼感あるいは人事諸施策への社員からの共感は極めて重要な問題なのである。

3.人事部の機能

 人事部の機能を充実させるためには人事部が何を求められているのか、つまり自社における位置づけを絶えず考えておくということも重要である。
 少数精鋭化を進めるなかでこの位置づけを見誤ると実務に支障をきたしたり、戦略部門としてのパワーを発揮できないことになってしまう。絶えず経営からのニーズと社員からのニーズの両面から人事部の目指すべき方向性を考え、人事戦略として明確に打ち出す必要がある。戦略的な見地から今なすべきことを探り、実行し、あるいは時間をかけて取り組むべきテーマを見つけ出して計画を練りアクションプランとして目に見える形にすることが求められる。
 そのためには経営環境の正確な読みと会社の現状および近い将来生じてくる課題をつかんでおかなければならない。そのうえで得た情報を元に形のないところから実際に人事戦略を構築する必要がある。人事部が経営の中枢組織として戦略的な機能を果たすためにはこの情報収集・分析・企画立案といった能力を組織として高いレベルで維持しなければならないのである。
 人事部というところはある部分では職人的・専門的な知識や技能を持たなければ職務遂行が難しい面も確かにある。社会保険関係を含めた福利厚生関連業務や人事制度などの知識はなかなか複雑で専門性がないと理解できない部分もある。また、社員数が何千人もいるような大企業では不可能かもしれないが、基本的に社員の顔と名前、基本的なスキルに関するデータを頭に叩き込んでおくことも重要である。
 しかし、専門分野はわれわれのような外部の専門家に任せてコアとなる戦略業務に注力することも有効である。最近は給与を中心とした人事業務関連のアウトソーシングが盛んになり、その機能も充実している。さらに外部スタッフの活用を通して一定の経験を積むことによってある程度のポテンシャルがあれば時間をかければ専門知識は身に付けることができる。社員に関する基本データに関しても必要に迫られればそれなりのポテンシャルを持つ人材であれば本人自身がそれなりに勉強するものである。
 それでは、強い人事部を実現するためには何が必要なのだろうか。次回後編では、強い人事部実現に向けた3つの施策を紹介する。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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