コラム「研究員のココロ」
外資系ホテルの日本進出成功のキーワードは「右脳」にあり
2004年01月19日 宮田雅之
日本のホテル業界、とりわけラグジュアリーなカテゴリーにおいては、外資系ホテルが主役としての地位を益々強めている。
かつてホテルの御三家と言えば、帝国、ニューオータニ、オークラであったが、昨今はパークハイアット、フォーシーズンズ、ウェスティンと言った外資系高級ホテルが新御三家と呼ばれている。大阪のリッツカールトンや六本木のグランドハイアットも人気を博しているし、今後も日本国内に潜在市場があると見ている外資系ホテルの進出計画がめじろ押しである。
なぜ、こんなにも外資系ホテルがもてはやされ、日本の老舗ホテルが苦戦しているのか。
その理由については、施設の新しさやセンスの良いデザイン、あるいはリッツカールトンの「クレド(信条)」に代表されるサービス力など様々な要素が上げられている。しかし、筆者はもっと根本的なところに原因があると考える。そのキーワードは「右脳」である。
「左脳」が言語処理や計算を支配している(論理的)のに対し、「右脳」はパターン認識やイメージ処理を得意としている(直感的、感覚的)と言われている。
我々の日常の消費行動を振り返ると、商品を購買するか否かの判断は「左脳」によって論理的に行われているケースが多い。例えば、「商品Aと商品Bは、スペックが同等であるが、商品Aの方が10%低価格なので購入する」と言った具合である。
一方、「左脳」では説明できない消費行動もある。女性が高級ブランド品を購入する場面を思い浮かべて欲しい。彼女達は、ブランド物のバッグのスペックや価格を細かく比較していない。「私はルイ・ヴィトンが好き」「私はエルメスが好き」と言った具合に、理屈ではなく「好き嫌い」で購入の判断を行っている。つまり、「右脳」で商品を選んでいるのである。
実は、「左脳」で判断される商品(以下、「左脳商品」と呼ぶ)か、「右脳」で判断される商品(以下、「右脳商品」と呼ぶ)かの違いは、商品を提供する企業の側から見ると、二つの側面で大きな意味を持つ。一つは粗利益の側面、もう一つは顧客の囲い込みという側面である。
粗利益について考えてみると、左脳商品の場合は価格(費用対効果)がシビアに問われるケースが多く、一般的に粗利益率は低い。これに対し、右脳商品は必ずしも価格が問われないケースが多い。右脳商品の代表である高級ブランド品のように、むしろ高価格の方が消費者の心をくすぐる場合さえあり、一般的に高い粗利益率が享受できる。
次に、顧客囲い込みについて考えてみると、左脳商品は価格の如何によってブランドのスイッチングが比較的簡単に行われてしまうため、一般的に顧客の囲い込みが容易ではない。それに対し、右脳商品は、ひと度支持を得られれば、顧客の囲い込みは比較的容易と言える。顧客を信者化してしまい、長きに渡って離れがたい存在となり得る。なぜなら、人の好みはそう簡単に変わるものではないからである。
こうして考えてみると、左脳商品よりも右脳商品の方が、企業側から見ると「おいしい商品」であると言えよう。
過去の企業間競争の歴史を振り返ってみると、日本人は左脳商品の開発が得意と言えるだろう。日本製品の信頼性が高いのは、左脳の鍛えられた日本人でこそ成せる技である。
しかし、右脳商品の開発は残念ながら得手とは見えない。
ホテルを例に当てはめてみると、左脳商品の代表は「宿泊特化型ビジネスホテル」である。低価格ながらもビジネス客にとって必要な施設・サービスをしっかり提供することが求められるこのカテゴリーにおいて、日本のホテル(東横インやスーパーホテルなど)は元気である。
一方、右脳商品の代表は「ラグジュアリーホテル」である。華やかさ、心地よさ、高級感などが求められるこのカテゴリーにおいて、日本の老舗ホテルが外資系ホテルに苦戦を強いられていることは先に述べた通りである。
では、日本企業が外資系企業から右脳商品を奪うための方法はないのだろうか。筆者は、日本企業の中に埋もれている「右脳が発達した社員(以下、「右脳型人材」と呼ぶ)」に「右脳商品を開発する機会」を提供することによって、活路が開けると考えている。特に、右脳型人材候補としては女性が挙げられる。なぜなら、女性は右脳商品への関心が高いからである。
そこで、右脳型人材を発掘方法について、筆者からの提案。
読者の周りにいる若い社員(特に、オピニオンリーダーと目される女性)に「好きなホテルは?」「行ってみたいホテルは?」と聞いてみて欲しい。先に上げたような外資系のホテルの名前を挙げた社員は右脳型人材である可能性が高い。
加えて、好きな理由・行ってみたい理由を尋ねてみて欲しい。「素敵なホテルだから」「憧れているホテルだから」等といった、「右脳」から発せられたと思われる言葉を返してきた人材は右脳型人材である可能性がより高い。
さらに、男性の読者が右脳型人材か否かを自己確認する方法について、筆者からの提案。
高感度な女性を伴って六本木ヒルズや銀座などのエリアを訪れてみて欲しい。そして、ルイ・ヴィトンなどの右脳商品ブランド店をウィンドウ・ショッピングし、グランドハイアット東京やフォーシーズンズ丸の内でお茶もしくは食事をしてみて欲しい。その良さを「頭」ではなく「肌」で感じることができたら、読者は右脳型人材である可能性が高い。
自分が右脳型人材ではないことがわかったら?残念ながら右脳型人間には努力してなれるものではない。とはいえ、関心を持つことがまずは右脳型人間への第一歩である。