コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

時代が求める「道州制」

2004年01月05日 入山泰郎


○道州制とは何か

 「道州制」への関心が高まっている。先の総選挙においては、自民党と民主党が共に「マニフェスト」で道州制に言及した。また、小泉首相は北海道をモデルとして道州制を検討する考えを示し、首相の諮問機関である地方制度調査会においても、次期調査会で具体的権限や区域などを検討する見込みである。地方側では北海道と北東北広域政策研究会(青森県、岩手県、秋田県による研究会)が相次いで道州制に関する報告書を発表している。
 この「道州制」とは、全国を10前後のブロックに分けて、「道」または「州」という広域的な自治体を設ける制度のことである。
 類似した用語に「連邦制」があるが、連邦制の場合は州(地方)が立法権や司法権などの主権を持ち、その一部を中央政府(国)に委ねる形となる。アメリカ合衆国やドイツなどが連邦制を採っているが、我が国が連邦制に移行するためには憲法改正も必要となり、(少なくとも短期的には)実現可能性が低くなる。
 一方、道州制は連邦制ほどドラスティックな改革を必要とするものではないが、現行の都道府県と比較して大きな権限と財源を移譲し、より自立した地方運営を可能とするものである。わかりやすく言えば、現行の都道府県の幾つかが合併して、一つの道州を形成し、そこに国の権限や財源の一部を移譲するイメージである。

○地方分権の受け皿として~「ポスト市町村合併」としての道州制

 道州制への関心は、「地方主権」「地方分権」の流れの中で理解されるべきである。まず、国の立場(国の権限を地方に分ける「分権」の立場)から考えてみよう。
 経済成長が最も重要な目標であるとの認識が広く共有されていた戦後の高度成長の時代には、国が一律の制度をつくって、地方がそれに従うやり方は大変効率のいいものであった。しかし、一定程度の経済成長を遂げ、ナショナル・ミニマム(全ての国民に保障されるべき最低限の水準)が概ね達成されたと考えられる現代においては、ローカル・オプティマム(地域が自主的に選択する最適な状態)の実現が重要となる。つまり、限られた地域資源を活用して、どのような行政サービスを優先して提供していくかは、国が一律に決めるのではなく、各々の地域が自らの責任で決めていく方が望ましい。
 そのためには、国の仕事は外交や治安などに限定し、その他の行政サービスについては、地方が行うべきとの考えがある。その受け皿として、基礎的自治体としての市町村があり、広域的自治体としての都道府県があるわけである。ただ、国から見れば現行の自治体では分権の「受け皿」としてふさわしい実力を持っているのか疑問だ(だから分権は難しい)、という考えがあると見られる。
 そこで市町村については、国によって合併が推進された。市町村合併が進むことで、基礎的自治体である市町村の規模は拡大し、「政令指定都市」「中核市」「特例市」など、都道府県から権限を移譲される市町村も増加する見込みだ。そして平成17年3月末に現行の市町村合併特例法の期限が切れることで、市町村合併推進の動きは一つの節目を迎える。。
 そこで次に広域的自治体の方に関心が向いた。つまり、市町村の規模と権限が拡大する中で、都道府県の規模と権限は中途半端となっており、新たな自治体の形として、より規模と権限が大きい「道州」への関心が高まっている、ということである。

○地方の立場から~小さすぎる都道府県、大きすぎる国~

 一方、地方の立場(特に都道府県の立場)から見ても、都道府県の区域や権限が小さすぎるという考えがある。

 都道府県は市町村の領域を越える広域にわたる事務や、市町村に関する連絡調整に関する事務等を行っている。しかし、市町村を越える広域行政にとって、都道府県の区域では小さすぎる場合がある。例えば東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県と4都県内の4つの政令市による8都県市首脳会議(「首都圏サミット」)では、ディーゼル車排出ガス対策推進に関して協議し、本年10月から4都県が同時に条例によるディーゼル車運行規制を始めた。首都圏における排ガス規制のためには、既存の都県の区域では小さすぎるのである。

 また、青森・岩手・秋田の3県も様々な連携実績を上げているが、その一つがソウルや北海道での県外事務所の共同設置である。これはソウル等に事務所を置くニーズは、個別の県単位では小さいものの、3県合わせればニーズも大きくなって、設置コストに見合ったものになると言うことであろう。
 一方、日本という国は大きすぎると考えることもできる。実は道州の経済規模は国レベルに匹敵する。例えば、北海道、四国、九州(沖縄県を含む)がそれぞれ道州となったと仮定した場合の経済規模を、OECD加盟国と比較してみよう。すると、いずれも欧州等の中小国に匹敵する規模を有していることがわかる。


北海道、四国、九州の県内総生産とOECD諸国の国内総生産

北海道、四国、九州の県内総生産とOECD諸国の国内総生産

資料:内閣府経済社会総合研究所「平成12年度の県民経済計算について」より作成

 つまり、国際的に見れば、日本の地方(道州)は、自立した政治・行政・経済・社会の単位としての規模を有しているのである。より高い権限を有する広域自治体として「道州」の設置が求められる理由はこうした点にも求められるのである。

参考文献:『北東北広域政策研究会報告書-地域主権の実現に向けて-』、北海道『分権型社会のモデル構想-北海道から道州制を展望して-』、地方制度調査会『今後の地方自治制度のあり方に関する答申』

(本稿は社会福祉法人全国社会福祉協議会・全国社会福祉施設経営者協議会『経営協』2003年12月号に掲載したものです)
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ