Business & Economic Review 2004年05月号
【REPORT】
ICタグの普及に向けたわが国の課題
2004年04月25日 調査部 IT政策研究センター 島田浩志
要約
- ICタグは、超小型のIC チップと無線通信用のアンテナで構成されており、無線自動認識と呼ばれる技術によって、物の管理や自動識別を行う機能を持っている。商品を識別する仕組みとして広く普及している「バーコード」と比較すると、IC タグは、a.多量の情報を記録することが可能、b.情報の追記・書き換えを行うことが可能、c.無線技術を利用することで情報のやり取りを自動的に行うことが可能、という三つの特徴を持っている。ICタグは、20年近く前から工場の生産管理システムの一部として使われていたが、ここ数年のメーカーの技術開発競争によってタグの小型化が急速に進み、価格も安いものでは50円を切るようになったため、アパレルや食品、出版、家電など、様々な業界で導入に向けた取り組みが相次いでいる。ICタグの活用範囲は広いが、大きくは、「トレーサビリティの向上」、「商品管理の効率化」、「ユビキタス・ネットワーク社会の構築」という三つの観点によって整理することができる。
- ICタグはIT産業を活性化するとともに、社会生活にも大きな変革をもたらす可能性を秘めた技術であるが、本格的に普及するには、「読み取り精度の向上」、「規格の標準化」、「プライバシーの保護」等、克服すべき課題も多い。とくに、規格の標準化は情報共有化によるバリューチェーン(価値連鎖)の促進効果があるため、普及の鍵を握っているといえる。現在、ICタグを利用した運用システムの標準化に関しては、「ユビキタスIDセンター」と「EPCグローバル(旧オートIDセンター)」の二つの団体を中心に進められているが、今後はいかに2団体間の技術や規格の調整を図っていくかが重要である。
また、ICタグの価格がバーコードと比べて割高なことが、企業によるICタグの実用化を制約する要因となっている。それは、単に取り付けられる商品が限定されるだけでなく、ICタグを複数の事業者が共同で利用する場合に、どの事業者がICタグを取り付けてコストを負担するかという問題へとつながっている。こうした制約のなかでIC タグを導入するには、「回収・再利用システムの構築」や「パレットやケース等、搬送単位での導入」に目を向ける必要がある。また、ICタグの導入期ともいえる現段階においては、各企業が既存業務のボトルネックを洗い出し、ICタグの活用のあり方を具体的に追求していく必要がある。 - ICタグの活用範囲や期待されるメリットは広範であるが、それらのすべてが現段階で実現可能というわけではなく、実用化には様々な問題がある。そうしたなか、アメリカでは、ウォルマートや国防総省が2005年から商品の搬入単位での装着を義務付ける等、ICタグを物流効率化手段として重点的に活用することで市場の拡大を目指している。世界最大の小売事業者と国防総省という官民の要がIC タグを本格的に活用するようになれば、価格が急速に低下する一方、技術開発も本格化し、普及が促進されよう。
翻ってわが国に目を転じると、ICタグの活用を模索する様々な動きはあるものの、その大半は技術的な検証等を目的とする実証実験であり、ICタグの需要を直接牽引するような具体的な取り組みは少ない。今後はIC タグの市場創出につながる具体的な活用策を掘り起こし、企業によるICタグの実用化を促す強力な施策が求められる。