Sohatsu Eyes
カイゼンにシニアパワーを
2004年07月27日 赤石和幸
「現場を歩いて音を聞くだけで施設の維持管理の状況が分かる。」と言うのは一昨年、大手プラントメーカを退職したエンジニアの言葉だ。 昨年度から当社にて、ごみ処理施設の運営業務の第三者評価、業務改善提案を実施している。運営業務の改善には高い中立性と現場での豊富な経験値が求められる。 民間企業の生産現場で以前から様々な取り組みがなされてきた。トヨタ自動車のカンバン(ジャスト・イン・タイム)方式が代表的な事例である。生産ラインを複数の視点から評価し、ムダを可視化することにより、改善(カイゼン)に取り組むというプロセスだ。
ごみ処理事業でも、同様な考え方を用いることが可能だ。具体的には(1)施設に搬入されるごみどのような特性にあるか(インプット)(2)ごみ処理事業を取り巻く状況はどうなっているか(制約条件)(3)運営は効率的になされているか(アウトプット)(4)運営コスト、住民満足度は適正か(アウトカム)といった流れだ。
評価結果により、「なぜ、運営コストが高いのか」「将来的な事業リスクはどのようなものか」といったことが「見えて」くる。可視化された評価結果から、制約条件を踏まえ、カイゼン方策を提示する。例えば、「民間が提示する補修コストの妥当性が評価できていない」との評価結果に対し、「まず、補修コストの詳細を提示させること」「補修履歴やトラブル履歴を整理して、整備項目にAからCまでの優先順位をつけること」「同規模のごみ処理施設へのヒアリングを通じて補修コストの水準を確認すること」などだ。一見当たり前のようだが「誰かに言われないと気づかない」というのが現場担当者の本音なのだ。
三重県のごみ発電施設をはじめ、全国のRDF発電施設で事故が相次いで発生した。そのたびごとに自治体にごみ処理施設の管理者責任が問われた。一方、財政状況が悪化する自治体では、ごみ処理施設の維持管理コストを抑えようと躍起であり、劣化が著しい施設が野放図にされている自治体も少なくない。管理者としてはごみ処理事業での説明性を向上させたい、現場サイドとしては限られた予算枠にて適切な維持管理を行いたい、これらニーズが高まるにつれ、技術的な視点からの評価、改善提案を得たいというのは当然の流れかも知れない。
モニタリングから改善の支援には、前述のとおり民間企業を退職した熟練技術者の活用が期待される。長引く不況の中、多くの製造業が投資規模を縮小させ、新規プロジェクトの実施を見合わせており、エンジニアの活躍の場が減少している。さらに07年度をピークに高度成長時代を支えた団塊世代が大量に退職する。現場知識の豊富な熟練技術者が自らの智恵を地域や社会のために還元させる仕組みが望まれている。
第三者の視点からアドバイスを受けたい自治体、豊富な経験を社会のために生かしたい熟練技術者、このシーズとニーズをマッチングさせ、先代の智恵を後世に伝承する、「智恵の輪」がこれからのキーワードとなる。
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。