Business & Economic Review 2004年02月号
【STUDIES】
クレジット・カード産業における証券化の功罪-アメリカのクレジット・カード専業銀行を事例として
2004年01月25日 調査部 鈴木大洋
要約
- アメリカでは、1980年代後半以降、クレジット・カード発行銀行の資金調達手段としてクレジット・カード・ローンの証券化が急速に進展した。2002 年現在、クレジット・カード・ローンの証券化商品のマーケットは、家計向け債権のABS市場の4割を占めるに至り、クレジット・カード発行銀行大手10行の証券化残高比率は、5割を上回っている。
- クレジット・カード発行銀行にとって、証券化のメリットは、a.ファイナンスのアベイラビリティの改善、b.自己資本比率規制に対応するためのリスク・アセットの減少の2点であり、低利調達、財務指標の改善というインセンティブが占めるウエートは小さい。
- アメリカのクレジット・カード発行銀行の一部では、証券化に過度に依存するようになった結果、リスク面でのひずみが生じている。まず、証券化することにより、証券化しない場合に比べて、クレジット・カード・ローンのクレジット・リスク管理が難しくなっている。さらに、オフバランス化した原資産のリスクのほとんどがオリジネータに残留する。サブプライム層向けのローンが大半を占める場合、これらのリスクが顕在化しやすくなっており、銀行経営の不安定化要因となるとともに、銀行本体への投資家に対して、潜在的なリスクを負わせることとなっている。
- 証券化によりクレジット・リスクの管理が困難となるのは、クレジット・カード・ローンがリボルビング債権であり、途上与信管理が重要な役割を果たすにもかかわらず、証券化においては、途上与信管理が制限される傾向にあるからである。また、証券化に伴い、オリジネータにクレジット・リスクが集中するのは、オリジネータが劣後部分を保有することに加えて、原資産のパフォーマンスが低下すると、早期償還条項が発動し、原資産がオリジネータのバランス・シートに復元するからである。
- 証券化に伴いひずみが生じるのは、a.クレジット・カード発行事業への参入が、銀行に限られていること、b.銀行に対して、自己資本比率規制が課せられていること、c.クレジット・カード・ローンについては、ポートフォリオの集約が急進展していること、の結果として、上位行に、ファイナンス・ニーズ、オフバランス・ニーズが強まっているからである。
- 証券化に伴うひずみを是正するための視点として、a.自己資本比率規制の見直し、b.ノンバンクへのクレジット・カード発行業務の解禁、c.オリジネータへの投資家に対する証券化情報の一段の開示、d.証券化スキームへの途上与信管理の取り込み、があげられる。
- アメリカでは、ノンバンクによるクレジット・カード発行業務への参入は、実現性が低い。国際ブランドにとっては、association のメンバーを銀行監督当局の規制をクリアした銀行に限定すれば、ブランドの品質管理が容易となる。またメンバーにとっては、銀行ライセンスをとり、国際ブランド搭載のカードを発行し、預金を受け入れた方が、ビジネス・チャンスが拡大する。
- 証券化を行う場合には、格付け会社が、a.オリジネータが証券化資産に対して、留保するリスク、c.証券化をファイナンスと考えた場合の調達コスト、を踏まえて、証券化がオリジネータの格付けに与える影響を明らかにする必要がある。これにより、オリジネータ本体へ過大なリスク負担を強いる証券化に対しては、市場からのチェック・アンド・バランスを期待することが出来る。
- 途上与信管理をオリジネータから切り離し、証券化スキームに組み込むことが出来れば、証券化クレジット・カード・ローンの与信管理レベルの向上が期待出来る。この結果として、投資家保護が強化されれば、早期償還条項の緩和、撤廃が可能となり、クレジット・カード・ローンの証券化におけるオフバランス性の回復を通じて、銀行経営の健全性向上へ寄与する。
- 日本のクレジット・カード産業の将来を展望すると、証券化が定着し、アメリカ以上に健全な発展を遂げるものと期待することが出来る。日本においては、消費者金融、個品割賦、クレジット・カード・ローンの市場がクレジット・カードをコアに融合し、50兆円規模の市場が形成されつつある。これは規模の経済が作用する競争の激しいマーケットである。いずれポートフォリオの集約が始まるものと予想され、証券化の定着に向けて土壌が整いつつある。