Sohatsu Eyes
リスク移転ビジネス
2004年11月24日 西村実
米国で土壌浄化ビジネスの急拡大を牽引したのは、汚染責任者に汚染した土地の浄化を厳しく義務付けた法律でした。反面、汚染した土地を知らずに買うと新たな土地所有者にも汚染責任者としての浄化義務が生じるというものだったため、工場跡地のように土壌汚染の恐れがある土地は敬遠されました。その結果、工場跡地の売却や再開発が停滞し、地域経済の減速や一部にはスラム化するといった社会問題が起こりました。
買い手側への優遇税制や浄化義務の軽減などを柱とする支援策が講じられた結果、汚染された土地やその恐れがある土地のリスクを織り込んで安値で購入し、汚染対策と再開発により価値を高めて売却するというビジネスが誕生しました。近年では、法律の強制力を背景とした汚染責任者による土壌浄化は頭打ちのようですが、汚染地を買い取って再開発を行うビジネスは成長しているそうです。
わが国でも土壌汚染は人の健康に影響を及ぼすというだけでなく、土地の価格形成に影響を与える因子として認識されています。汚染地を買い取るビジネスは、減価のリスクを取ってリターンと得るという意味で可能性があると思います。土地所有者にとって土壌汚染対策費用はコストに過ぎず、対策を施しても本来の土地の価格以上では売却できませんが、買い手にとって安値で購入した土地の汚染対策費用は投資の一部であり、開発により価値が上がれば長期にわたる事業収益を得たり、本来の土地価格以上での売却が可能となったりするからです。また、買い手の方が、土地の利用計画を把握している分だけ、対策方法選択の自由度が大きく、工夫の余地があります。
土壌汚染リスクを的確に見切って管理できるかという点が成功の鍵ですが、最近の経験からいくつかの境界条件が見えてきたように思います。
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。