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コラム「研究員のココロ」

NPOを研究テーマにしているコンサルタントの“つぶやき”

2003年09月29日 矢ヶ崎 紀子


 今から約10年ほど前、私は、特定非営利活動促進法の制定に関する議論が始まった頃に、運良く(?)、NPOや市民活動に関する調査研究を受託することができ、それ以来、このテーマでの調査研究プロジェクトを年間3~4本程度受託し続けることができている。大学および現在在籍している大学院で、市民参加や住民自治、自治体経営についての勉強を多少してきたことから、入社以来、市民活動を振興するような研究テーマに携わりたいとの思いを持ってきたので、人前で「NPOが研究テーマです」と言える現在の状況は、なかなかに幸せだと感謝している。
 さて、“とにかく、継続は力なり”をモットーに10年近くにわたって、NPO関連の仕事をしていて、最近特に強く感じることがある。思わず、独り言でつぶやいてしまうのは、さすがに年のせい?と思いつつ、多少の恥を偲んで御紹介してみようと思う次第である。できれば、同じ様な思いを持っている方からの励ましを頂けることを期待しつつ…。

つぶやき その1 「思えば、遠くに来たもんだ…」

 内閣府のHPに特定非営利活動法人(通称、NPO法人)に関するデータが掲載されている。この8月末で、1998年12月1日以来のNPO法人の認証数の累計が12,000を超えた。特定非営利活動促進法の法人格を取得しているNPOだけで、この数である。この法律の制定以前には、有限会社となるNPO もあり、また、現在でもあえて法人格を取得しないNPOもかなりあると推測されることから、未法人のNPOまでいれると、全国でその数は何万団体になるかわからない。
 数だけのハナシではない。NPOという言葉に対する社会的な認知や理解もかなり進んだ。新聞記事にNPOの文字を見ることも多く、また、NPOの実践家達に聞くと、何か新しい事業を立ち上げると、だいたいマスコミの方々が取材に来てくれるという。ある商店街で聞いた話だが、「商店街が地域住民のために何かしようとすると、儲けるため?と疑われちゃうのです。でも、商店街の有志がNPOをつくって同じことをしたら、大歓迎で…」という実例もある。
 「え~、NPOというのは、民間非営利組織と訳すのがいいかと思うのですが、アメリカでは社会サービス提供の主力の一つでありまして…。ええ、まだ、日本ではなじみがないですね。NGOとの違い?ボランティア団体との違い?それはですねえ…」なんて、回りくどい御説明を申し上げていたころから、ホントに遠くに来ましたね。うれしい限りです。

つぶやき その2 「元気、元気、元気…、なんたって元気!」

 NPOの代表や事務局長の方々とお付き合いしていて、いつも感動することは、その活動の素晴らしさもさることながら、ご本人達の元気さである。実に、バイタリティあふれ、ご自分の信念をもち、それを実践するためには多少の苦労はものともしない。先日も、子育て支援NPOの代表から、「子育て中のお母さん達を1万人ネットワークしたわよ!」と聞かされ、びっくり。世の中不景気で人々の心も沈みがち…というハナシはどこ吹く風である。調査研究の一環として、 NPOへのヒアリング調査や、実際の活動の場でのフィールド調査をすることが多いのだが、1件あたりのヒアリングときたら、かるく3時間はかかってしまう。午後2時からヒアリング調査を始めて、結局夕飯をご馳走になって帰ってきたことも、一度や二度ではない。そして、「語り尽くせなかったから」と、後日資料を郵送して頂いたりもする。
 元気さも半端でないと、こちらも、かえってやりがいがある。NPOへのヒアリング調査の前には気合を入れる。ヒアリング時間の長さに耐えるタフさも必要だが、NPOの熱意に寄り添いながらも、一線をこえずに研究者としてのクールなマインドを失わないようにバランスを維持する精神力もかなり必要である。「目の前の困っている人のため」「こんな地域社会の喫緊の課題のため」という熱い言葉をきっちり受け止めながら、その言葉達を、頭のなかで、「団体のミッション、合意形成や意思決定のしくみ、コミュニケーションチャネル、活動の戦略、外部の資源の活用、影響と成果、全体のマネジメント…」などの分析ツールに通して、分析し、解釈するのだ。
 でも、こんなことは苦労でも何でもない。NPOの方々との出会いを通じて、「では、私はなにができるのだろう?」と自分に問いかける。時には、第三者に過ぎない自分の無力さに元気をなくすこともあるが、そんな時には、「自分は素敵な活動をしている人たちの通訳者である」と開き直る。きっと、私もまた、 NPOの方々から元気をもらっているのだろう。ありがたや。

つぶやき その3 「ほんとに来るんだろうか?“市民社会”」

 このところ、NPOをめぐる研究テーマが多様化している。以前は、NPO振興のための支援策はどうあるべきか…といったテーマが多かったが、現在では、もっとNPOの可能性を追求したい、あるいは、NPOとパートナーシップを組むためには…といったテーマにシフトしてきているように思う。商店街とNPO の連携、コミュニティ・ビジネスにおけるNPOの可能性、新しい公共サービスの担い手としてのNPO、NPOとのパートナーシップのあり方、などなど。
 そして、NPOへの認知や理解が高まるとともに、国、自治体、そして、企業が、本業や社会貢献活動等の多様な分野において、NPOの存在を視野に入れている。もはや、日本のNPOは、公的セクターからも、営利セクターからも、有力な社会の主体として認知されていると言っても過言ではないかもしれない。
 そんなNPOの活躍は、都市だけでなく、地方でもおこってきており、自ら社会の課題を発見し、その解決のために主体的に非営利のアクションを起こしていく…といったNPO的な行動様式が徐々に広まっているように思われる。NPOと自治会・町内会等の地縁組織との関係は、地域活性化の大きなポイントの一つであるが、なかには、NPO的な行動様式を採りいれて活性化している地縁組織もあるときく。
 こうなると、やはり、つぶやいてみたくなるのである。「これは、ホントに来るかもしんないね。日本にも“市民社会”ってものが。」 地方主権や住民自治が実現するには、住民のエンパワーメントが不可欠である。NPOの近くにいると、それが、徐々に起こってきている胎動を実感することがあるのだ。これは、研究者冥利につきる、なかなかにゾクゾクする感動なのだ。
 最後の課題の一つは、おそらく、行政が“市民社会”にふさわしく変わっていけるかどうかであろう。住民自治を影からしっかり支え、住民が必要とするプロフェッショナルなアドバイスができる行政マンが必要とされてくるのだろう。さて、ここで、最後のつぶやきである。「そうなると、コンサルタントって要るのかな? やっぱり、私もNPOを立ち上げようかな…」
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