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Business & Economic Review 2004年01月号

【FORECAST】
日本経済の中期展望(2004~2008年度)-新しい持続的成長パターンの確立に向けて

2003年12月25日 調査部 経済研究センター


要約
  1. わが国経済は、2002年初頭に回復局面入りした後、一時的に減速しながらも、基本的には緩やかな回復傾向が持続。名目成長率の回復が遅れるなか、デフレーターの大幅下落によって実質成長率が上昇するという姿は、前回の景気回復局面と変わらず。もっとも、今回の景気回復の最大の特徴は、大規模な財政出動がきっかけではなく、民需主導で始まったという点。

  2. 今後5年程度の日本経済は、過去10余年にわたり自律回復への重石となってきた各種マイナス要因の減衰により下降トレンドに歯止めがかかり、「新たな上昇トレンドの定着に向けた模索」が行われる時期と位置付け。
    イ)アジアの工業化は、これまでは、わが国の製造基盤縮小、逆輸入比率の上昇といったマイナス要因としての側面が大。しかし、わが国製造業が「擦り合わせ技術」に比較優位を見いだしつつあるなか、アジアの本格工業化の「第一波」によるマイナス作用は一巡。むしろ、今後は、アジア地域の高成長によりわが国輸出が拡大するという「新たな成長パターン」へのシフトを通じて、プラス面が強まっていく見込み。
    ロ)大企業製造業を中心に財務体質が健全化。とりわけ、バランスシート面では過剰負債・設備の削減が顕著であり、収益面でも売上高経常利益率がバブル崩壊以降の最高水準に。
    ハ)需給ギャップの縮小に伴い、一般物価デフレは徐々に解消に向かい、合せて平均賃金の下落にも歯止め。株価や都心部の一部の地価に持ち直しの動きがみられるなど、資産デフレにも一服感。こうしたデフレ圧力の減衰により、金融機関の不良債権問題も最悪期を脱出。

  3. 2004~2008年度のわが国経済の景気のコースについては、まず、堅調な海外環境・リストラの果実としての高収益を背景に、2004年度前半にかけて企業部門主導の景気回復が持続。
    2004年度後半から2005年度には、アメリカ・中国景気の減速を受け、景気に調整色が出てくる公算。もっとも、アジア域内の貿易拡大、日本企業の体質改善という基礎的環境は良好であり、大幅な落ち込みは回避出来る見通し。
    2006 ~2008年度については、財政再建路線が維持されるもとで、公的需要は景気に対するマイナス要因として作用するものの、各種構造調整圧力が緩やかな解消に向かうなか、基本的には緩やかな景気回復トレンドをたどる見通し。
    デフレ圧力が残るとはいえ徐々に緩和し、2006年ごろには名目成長率がプラスに転じる。消費者物価(消費税除くベース)も2008 年度からマイナス基調を脱する見通し。

  4. このように、実質GDP ベースでは緩やかな上昇トレンドをたどるとみられるものの、名目GDPベースではほぼ横ばいの動きであり、中小企業部門や家計では景気回復感に乏しい状況が持続。今後5年の上昇傾向をさらに次の10年先までの上昇トレンドへと定着させるには、依然として多くの課題が残存。
    イ)持続的成長の前提としてアジアのダイナミズムの取り込みが前提となるが、そのためにはFTAを積極的に推進してアジア自由貿易圏を構築していくことが不可欠。しかし、農業問題がネックとなり、現状ではFTA が締結出来ない状況。
    ロ)雇用を持続的に拡大していくにはサービス産業の成長が不可欠であるが、最大の雇用受け皿として期待される医療・健康分野をはじめ、「公共セクター」の規制改革は遅々として進まず。
    ハ)財政赤字拡大、家計貯蓄率低下というトレンドのもとで、企業部門の再生に伴い資金需要が回復していけば、金利に対して上昇圧力が強まり、財務体質改善の遅れる中小企業部門に打撃を与える恐れ。さらには、国債利払い増が国債残高を増やすという悪循環が始まれば財政赤字は雪だるま式に拡大し、2010年ごろから、貯蓄投資バランスからみて経常黒字が急速に縮小し、金利が急騰する恐れも。

  5. 以上の認識を前提として、政府は2004~2008年度の5カ年間で以下の施策を講じる必要。
    イ)a.アジア自由経済圏のフレームワークの構築、b.「技術立国」推進のための総合施策、c.規制改革・税制改革・インフラ整備を軸としたサービス産業活性化、d.地域主導の産業・雇用再生策の展開、e.持続可能で信頼の置けるトータルな生活保障システムの整備、f.厚みのある市場の構築を通じたマネーフローの健全化、g.税制・財政改革を通じたプライマリーバランスの均衡化―の七つを柱として、それらの具体策と実施時期を明記した「日本経済再生に向けた5カ年計画」を急ぎ策定し、実施に移すべき。
    ロ)財政・金融政策の課題は、「デフレーションからの円滑な脱出に向けたファインチューニング」であり、より具体的には、a.「柔軟な中立型」財政スタンス、および、b.長期金利安定化のための金融政策の展開が求められる。
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