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コラム「研究員のココロ」

「実績」重視を問いなおす

2003年08月11日 西條收


 [1]人事管理では「コンピテンシー」という考え方が最近大流行である。「コンピテンシー」とは、成果を上げている社員=「実績」のある社員、に特有の行動特性や考え方を分析し、共通的に観察される行動をリストアップする。この共通的に観察される行動が「成果に結びつく要素」であると考え、各社員が「成果に結びつく要素」を実行するように求め、各社員の最大成果の獲得=全社の成果獲得=業績向上に結び付けていこうとする。具体的には、「コンピテンシー」が教育基準になったり、人事評価基準になったり、といった具合である。

 [2]多くの企業では管理者すなわち一定の組織の責任者を任命しようとするときには、過去「実績」を上げてきた社員の中から適任者を任命することが通常である。このときの過去「実績」という場合、一般社員として過去どの程度実績を上げてきたかが重視される。例えば営業管理者でいえば「営業マンとして実績を上げた人」が、営業管理者に昇進するコースを歩むことになる。いわゆる「名プレイヤー必ずしも名監督ならず」といった面はあるが、そうした人事をしたほうが社員にも納得性があるし、分かりやすい、といった事情で実施していることが多い。

 [3]そういえば、近年の公務員改革の一環で、独立行政法人化予定会社や、国立大学法人予定大学でも「能力や実績に応じた人事」が求められるようになってきた。人事コンサルティングのニーズも高まっているが、こうした公的機関への「入札=コンサルティングの企画提案」に際しては、必ず公的機関へのコンサルティング「実績」の有無・内容が義務付けられている。

 [4]また建設業の方に伺ったお話であるが、官庁工事だけでなく、公共的性格の強い会社からの案件においては、過去の工事「実績」が求められる。これは入札に際し各会社独自もしくは業界団体でつくる「資格」を持つもののみが工事を行うことができる、という形で現れる。資格を獲得するためには一定の「~工事の経験年数」が必要で、その「資格」を持たないものは、入札に参加することができない、というわけである。

 



 以上、「実績」ということが重視される例をご紹介したが、上記の例では「実績を重視する」ということの意義は下記の通り整理できよう。
(イ)過去の仕事と同一条件で同様のアウトプットを出す仕事を行う場合に、過去に実績があれば=きちんと仕事をしていれば、今後の仕事も期待通りやってくれるであろうという期待・仮説に基づくもの
(ロ)周囲に納得性が得やすいという理由に基づくもの
(ハ)当該業務への参入障壁を高くするという理由に基づくもの
この中では(イ)が各事例に共通するもっとも一般的な意義であるといえる。

 さて、こうした「実績」重視の考え方は今後どうあるべきだろうか?上記の(イ)を一部裏返して言い換えてみよう。
 ・過去の仕事と同一条件でない仕事の場合に、「実績があるからといって」今後の仕事を期待通りやってくれるであろうとはいえない。
 ・(従来のノウハウが活かせない)新規性の強い仕事では「実績があるからといって」今後の仕事を期待通りやってくれるであろうとはいえない。
というように言い換えることができる。つまり仕事の内容によって、また従来と今後の状況の変化によって、過去の実績をどの程度尊重すべきかが決定されるものといえる。

 例えばコンピテンシーについていえば、仕事の手段・方法が確立している=従来と同様の仕事のやり方である、といった場合には有効であるが、そのコンピテンシーが今後の仕事の変化を想定したときに、必ずしも有効であるとはいえない場合がでてくる。そのような場合には「過去の実績=経験則」ではなく「今後の成功のための条件」を探らなければならない=予測。これをどう作成するかが、各企業の知恵の出しどころであり、私どもコンサルティングファームの腕の見せどころということになる。

 
 さて、今回ケースでご紹介した各例について、同様の分析をしたらどうなるであろうか?「実績」を重視することがやはり良いのか、あるいはその逆か、その分析は読者にお願いすることとしたい。近年は「変化の激しい」「タブーであったことがタブーでなくなる」「朝礼暮改は当然」等々様々な言葉で形容される時代である。今一度、「何が評価の基準であるべきか」を様々な場面で問い直して見るのも意義あることではないだろうか?
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