コラム「研究員のココロ」
事業創造に資する開発的人材の育成について
2002年09月02日 水間 啓介
少し前になりますが「ガイアの夜明け」というTV番組で、「特許戦争最前線」というタイトルの特集が組まれていました。日本のある企業の知財部を舞台に、アメリカでいかに強い特許を取得するかについて企業マンたちの働きぶりが紹介されていました。
日本でもここもと「プロパテント」が叫ばれ、日本が今後世界で競争力を維持していくには、知的財産をいかに強化していくかが大事であると、広く認識されるようになってきました。
しかしながら、プロパテント、強い特許を持つこととともに忘れてはならないのは、開発的人材をいかに育成していくのかということです。
人事の現場では、ヒューマンキャピタルマネジメントが重視される時代となってきました。ヒューマンリソースではなくヒューマンキャピタルです。人材を「リソースすなわち資源」として捉えるのではなく、「キャピタルすなわち資本」として捉える考え方です。こうした「資源」という捉え方から知的資産のクリエーターとしての「資本」へと人材の捉え方が変わってきたことは改めて申し上げることもないかもしれません。
しかし、人材を知的資産のクリエーターとしての「資本」と捉える場合の課題を考えるとき、「知恵」すなわち「事業資源を見出して事業化する知恵」を生み出すような「開発的人材」を育成する環境づくりが重要であると考えます。
その一方で、「アライアンス」を組むということも重要なポイントです。今日ほどスピードが求められる時代はないと思います。戦略を練っているうちに時代遅れの戦略になってしまうことがないような対応が求められます。自社でじっくり考えて開発をするのでは、このスピードに乗り遅れてしまうケースも起こりえます。そのために「アライアンス」を的確に組むことによってスピードについていくが可能となるからです。
以上申し上げたいのは、開発的人材を育成し、アライアンスを積極的に組んでいくことが極めて大事であるということです。
黙っていても成長する世の中ではありません。自社の「フィールド」にとらわれていては事業環境はますます狭まってしまいます。それにもかかわらず、積極的に外部資源をとりいれて「フィールド」を広げたり、全く新しい「フィールド」を作る企業はそれほど多くないように思います。確かに、世間で知財取引を活発化させようとする動きが見られます。そこには、売り手・買い手・流通業者という仕組はあります。売り手はたくさんいます。でも買い手が著しく不足しています。 何故でしょうか?
そこには買い手を育てる仕組がないことが大きな要因と考えられます。マーケット作りに目を奪われている感があります。核となるのは人材の育成です。売り手が買い手になり、買い手が売り手になる。そのような開発的人材の育成を早急に行なっていくことが必要でないかと思います。7月3日に発表になりました『知的財産戦略大綱』においても、知的創造サイクルを支える人材の充実が重要なテーマであることが強調されていました。
開発的人材の育成とは、専門知識を持った人を何人育成したのかではなく、現実に専門知識を活用してアライアンスを組んで実行している人を何人育成したのかが重要であると考えます。
知財に関する知識を提供し、名刺交換の場を提供するだけで、事業化に向けたアライアンスへと発展させるかどうかは参加者しだいというのでは、理想とする開発的人材の育成には遠回りだと思います。開発意欲を持った人材が集う、「知的創造の場づくり」が決め手だと考えます。
<『知的財産戦略大綱』は、首相官邸HPでご覧いただけます。>