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コラム「研究員のココロ」

広がる市町村合併
~「平成の大合併」の背景と影響~

2002年08月05日 入山泰郎


全国で進む市町村合併

 全国で市町村合併の動きが広がっている。
 市町村合併にあたっては、その協議の場として、関係市町村による「合併協議会」を設置することが「市町村の合併の特例に関する法律」(合併特例法)に定められている。この合併協議会は平成14年7月15日現在、87設置されており、関係市町村は344にのぼる。

 さらに法律の定めによらない任意の協議会や研究会を含めると、全国で517の協議会・研究会が設置されており、関係市町村数は2,226と、全市町村数(3,218)の約7割に相当する(平成14年4月1日現在)。

 合併協議会が設置されれば必ずしも合併が実現するわけではないが、合併に関する検討が全国各地で進んでいるのは間違いない。まさに「平成の大合併」と呼びうる状況を呈していると言えよう。


「平成の大合併」の背景

 このように全国で合併検討の動きが進む背景として、以下の三点が指摘できる。

 第一に、地方財政の逼迫である。そのため、地域で共有できる資源を有効活用し、財政の効率的な利用が求められている。また、少子高齢化がさらに進展すれば、地域の担い手の減少等による地域活力の低下や、高齢化対策等の財政需要の増加により、地方財政はますます厳しい局面を迎えると予想される。

 第二に、市町村に求められている役割が拡大している。住民の価値観の多様化などに伴い、介護保険・環境問題・情報化など、市町村が提供すべき行政サービスが多様化、高度化している。そのため、専門性の高い職員の確保が必要だが、小規模の市町村では対応が困難である。しかも、地方分権の進展により、住民に最も近い自治体である市町村への期待は高まっている。

 第三に、生活圏・経済圏と行政圏の不一致が指摘できる。交通網や情報ネットワークの発達などによって日常生活圏や経済圏は拡大傾向にある。一方で、市町村の範囲は従前と変わらず、生活圏・経済圏との不一致が大きくなっている。そのため、受益(行政サービスの受け手)と負担(納税等の行政コストの負担者)の不一致が拡大している。

 こうした状況を受けて、国は市町村合併を推進する立場を明確にしている。首相官邸に市町村合併支援本部が設置され、合併市町村に対する財政面等の支援措置が強化されている。一方で、支援措置を定めた合併特例法は平成17年3月末までの時限立法であり、この時期までの合併を強く推進する国の態度を見て取ることができる。


市町村合併の影響

 それでは市町村合併が実際に起きた場合、どのような影響が生じるのか。大きく四点に分けて考えられる。

 第一に、合併は市町村の規模の拡大を意味する。財政基盤拡大により、大規模な投資が必要な事業が実現可能となる。国民健康保険制度等についても、財政基盤の拡大・強化が可能となる。また、小規模市町村では困難だった専門職員(社会福祉士、保健師等)の採用が可能になるなど、高度な行政サービスへの対応が容易となる。既存の合併事例においては、例えばつくば市が福祉関係などの専門職の充実を合併のメリットとしてあげている。

 第二に、合併は既存の市町村界の消滅であり、行政の広域化を意味する。そのため、各種の施設やサービスを広域的な観点から効率的に整備することが可能となる。もっとも既存の合併事例では、整備済みの施設の統廃合は課題として積み残されているケースも多い。

 第三に、合併は関係市町村の行政サービス水準の統一を意味する。合併に対する懸念沈静化の狙いもあって、「サービスは高い方に、住民負担は低い方に」あわせる事例が多いが、過剰に高い行政サービスは、過渡的な期間を経て適切な水準に調整されることも多い。既存の合併事例においては、例えば飯田市と上郷町の合併では、両市町で内容に差がある補助事業(福祉サービス等)について、対応策を9種類に分類(廃止、継続等)して、コスト増も考慮してサービス水準の設定が検討され、内容が大きく変わるものについては5年間の激変緩和措置が設けられた。

 最後に、合併を検討するプロセスは、その後の行財政改革のきっかけとなるものである。合併にあたっては、関係市町村の全ての事務事業を洗い出し、再検討し、調整する作業が行われる。また、個々の事業だけでなく、行政の仕組みや、新しい市町村で何を優先する施策とするのかといった、新市町村のビジョンについても検討が迫られる。

 そのため、合併の影響は、合併協議期間中あるいは合併後の市町村の調整や運営により大きく左右される。新たな市町村をどのようにつくるのか、そして行政に何を求めるのか。市町村合併に当たっては、行政だけでなく、住民や地域社会も、新たなまちづくりを考えていくことが求められていると言えよう。

<参考資料>
総務省ウェブサイト「合併相談コーナー
日本総合研究所 市町村合併・広域連合研究チーム「市町村合併の実態と今後の推進に向けた提言」『Japan Research Review』2000.2


出典:社会福祉法人全国社会福祉協議会・全国社会福祉施設経営者協議会 会報「経営協」
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