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コラム「研究員のココロ」

日本企業を動かす戦略策定手法

2002年06月10日 宮田雅之


 「リストラは一通り実施した」「しかし、今後の成長軌道をどう描いたら良いかわからない」こんな経営者の声をよく耳にするようになった。閉塞感に満ち、金縛りにあっている会社を、何とか前向きに動かしたい、という経営者の切実な悩みである。その一つの答えとして「動く戦略作り」をご提案したい。

 本来、企業の進むべき道筋を示したものが「戦略」である。つまり、策定された戦略に従って企業は動いているはずだ。しかし、コンサルティングの現場で、外見は立派でも実行されていない(動いていない)戦略に出会うケースは少なくない。なぜこのような事態になってしまったのか。

 この原因は「戦略作りのプロセス」と「日本の企業風土」とのミスマッチにあると考える。欧米の企業が戦略論を軸としたトップダウン型の経営スタイルであるのに対し、日本企業は現場主義に基づいた経営スタイルである、と一般的には言われている。現場に意思決定の主体があることが日本企業の特徴であるとすれば、トップダウンを前提とした欧米型の理詰めの戦略を経営企画部門が主導となって策定しても、現場に受け入れられず、実行に移されないことは、ごく自然の成り行きともとれる。

 企業の原動力が「現場の第一線」に置かれている日本企業においては、企業を動かすキーパーソンは「中堅」の「自他共に認めるエース」と言われる人たち(以下、ミドルのエース)である。つまり、ミドルのエースが内容を認め、自らが実践の主体となって活動を開始してこそ、計画倒れにならない「動く戦略」となるはずである。

 では、「動く戦略」を産み出すためには具体的にはどうすれば良いのか。その一つの回答は「ミドルのエースによるコンセンサス作り」にあると考える。社内で最も当該ビジネスについて理解が深く、かつ経営陣からも部下からも信頼を得ているミドルのエースに、「当事者」として戦略策定のプロセスに取り組んでもらうのである。

 戦略策定に当っては、ミドルのエースを10人程度のメンバー選抜し、侃侃諤諤の議論を行ってもらう。中途半端な議論で終わらないよう、一回当り半日程度は確保することをお薦めする。そして、「顧客からみた価値(顧客は他社ではなくなぜ我が社の商品・サービスを購入してくれるのか)」を徹底して議論し、コンセンサスを導き出すのである。

 ここで重要なのは、メンバーが所属部門の利益代表として参加するのではなく、全社的な視点で議論を戦わせることである。自らが直接関与していない事業に対しても、積極的に各々の考えをぶつけ合うことで、部門内の常識にかき消されていた当該事業の「本質」が見えてくる。

 この方法は、必ずしも戦略策定のプロではない、ある特定のメンバー(社内に必ず数名存在するミドルのエースたち)に戦略作りを任せることであり、見方によっては「リスク」の高いやり方かもしれない。しかも、ひと度議論が始まると、自らの考えに自信を持ったミドルのエースたちが、互いの「主観」を戦わせる場と化する可能性が容易に想像される。もちろん、お互いが意地を張り合い、けんか別れになってしまっては意味がないので、議論を目的の方向に導くコーディネーター(第三者)を介在させるなどの配慮が必要である。しかし、こうした取り組みによって「外部の経営環境分析」と「自社の経営資源分析」から生み出される「理詰めの戦略」とは一線を画す、その会社のキーマンの“思い”が盛り込まれた「他社にはない個性ある戦略」を描き出すことができるはずである。この「他社にはない個性ある戦略」こそが、企業の推進力であるミドルのエースが主体となって動く戦略となると考える。

 確かに、昨今「経営者のリーダーシップ」を求める声が多い。しかし、その言葉の呪縛に囚われすぎていないだろうか。リーダーシップとは、必ずしも「リーダーが全てを考え、全てを決めること」ではない。現場の第一線の知恵を引き出す環境を作り、そこから産み出された「動く戦略」をバックアップすることこそ、今日本企業に求められているリーダーシップと言えるのではないか。

 そして、経営者と現場の価値観が一体となった「動く戦略」が始動した時に、新たな成長軌道が現実のものとなるであろう。
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