コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

「行政評価」が顕在化させてくれた課題(2)
行政評価が提起した課題~総合計画とは何か?

2002年04月30日 柿崎平


 わが国における行政評価は緒についたばかりであり、既に導入している団体においても、一部の先進団体を除いて、その大半は未だ事務事業評価に止まっている。しかし、行政評価システムの本来の効果を現出していくためには、「政策・施策から事務事業までを総合的に評価できるシステム」を構想する必要がある。
その主な理由は以下である。


自治体の戦略的な方向付けをするためには、個々の事務事業よりも大きな単位での検討が必要になってきている。


中長期の方向付けをするためには、施策単位での重点化等のメリハリが今後ますます必要になってくる。そのためには、定期的に、政策レベルでの軌道修正を入れる仕組みが不可欠となっている。


事業の抜本的見直しには、「上位施策の目的と、それに対する各事業の貢献具合」からの評価が不可欠である。そうすることで、事務事業評価の精度もアップすることになる。


事務事業評価どうしの統合/重複の排除を図るためには、個々の事務事業を個別に評価するだけでは困難であり、一段上の施策レベルでの評価が不可欠である。事業レベルの評価だけでは、相互調整は上手く行かない。


市民への説明責任を勘案すれば、事務事業評価だけでは不十分であり、施策レベルでの市民にも分かりやすい目標設定とモニタリングの仕組みが不可欠である。
 こうした考え方に対しては、多くの人が理解し賛同するのだが、実際に行う段になると、ここで根本的な問題に直面することになる。それは、「「政策-施策-事務事業」の体系を表す政策体系が備わっていない」ということである。

 これは、ある種、行政評価の貢献といってもよいのだが、「自治体では、総合計画(10年程度)の政策体系に則り、年々の活動が行われている」とだれもが考えていたはずだが、現実は、そうではなかったということが明白になりだしている。もっと正確に言えば、職員でさえ、「総合計画の体系に則り、行政活動を展開してきている(はずだ)」と何の意識も無く考えてきたが、行政評価を導入してはじめて、「実は、そうではなかったかもしれない」ということに気づき始めているのである。


 例えば、「総合計画にある政策体系が必ずしも'目的-手段'の体系とはなっていない」、「政策や施策レベルの目標が無い(=極めて曖昧である)」といった問題が、既に行政評価を導入し始めた団体では顕在化している。そうした問題にどのように対応しているかは、各団体の考え方次第であり多様であるだろう。評価をするためには、その前提として、「明確な目標」がなければならないのだが、それが無かったことに愕然としているというのが実際のところである。

 これまた皮肉なことだが、愕然としているのは、行政評価担当者のみであり、一方の総合計画担当者は、「いまさら何を言っているのか、明確な目標など作成できるわけがない」という率直な感想からはじまり、「評価で必要なのであれば、行政評価サイドで目標を策定すればいいじゃないか」という本末転倒な考えまで出てくるケースも珍しくない。いったい、自治体における総合計画とは何なのか、評価はそれとどのような相互補完関係を形成していくべきなのか、理論的かつ実践的な検討が迫られている。


 こうした背景には、行政活動の調整メカニズムのなかで、「予算の配分」が突出した役割を担ってきた事実があることは間違いない。総合計画も重要な調整メカニズムであったはずだが、現実的には、「予算に直結しない」という理由で本来の機能が果たせなかった。トップから現場職員までがそうした認識であったことは否めず、そうであれば、総合計画担当者も、具体的で明確な目標を作成して庁内外に波風を立てるよりも、すべてを曖昧にした無難な計画を作り終えることに注力しても致し方ない。


 こうした状況の突破口を提供したのが、近時の行政評価であるといってもよい。行政評価は、旧来とは異なった政策体系を要求する。これまでの計画体系(「基本構想-基本計画-実施計画」)、計画期間、計画更新ルール等を根本から見直し、変化の激しい時代に適合した「計画」ないしは「目標」を自治体自らが作りあげる努力を早急に開始しなければならない局面にきていると言えよう。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ