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コラム「研究員のココロ」

企業と個人の新たな緊張関係

2002年03月04日 角 直紀


 社内公募制度や社内FA制度・社内ベンチャーといった個人の選択の幅を広げる施策をとる会社が最近増えてきています。


 これまでの一律的なゼネラリスト育成と意図の不明確なローテーションという仕組みが求心力を失ってきているので、新たな仕組みとして、全体の人材開発施策の中に個々人の自己実現の方向性に合わせたキャリアの多様性を提示する必要が出てきたのです。

 しかし、実際にこれらの施策を機能させるのはそんなに簡単なことではありません。人材開発の機会を巡る会社と社員の新たな緊張関係が持つリスクをキチンと踏まえなければならないのです。


 新たな緊張関係とは何でしょうか。個人の創造性が企業の競争力の鍵を握る時代において、会社は今まで以上に適材適所を追求していく必要が出てきています。更に言えば、過去の実績とは関係なく、現在あるいは未来の価値で人材を選別したいというのが本音でしょう。一方で、個人は雇用流動化の時代を迎え、自分の能力を向上させる機会を常に求め、会社に依存しなくとも生きていけるスキル習得を求めているわけです。

 「厳しい成果主義を入れたし、それに対する組合からの要求に応えてということで、社員も喜ぶような流行の制度を入れよう」などといって安易にキャリア選択の施策を導入しても決して上手く行きません。あるいは、若手のガス抜きという隠れた目的をもって導入する場合もあるでしょうが、そんな甘いものではありません。実際に導入したものの、実施段階で腰折れしてしまい、上手く行かなかった場合のツケは、以前より増す会社への不信感や表面化しない深刻なモラルダウンとして跳ね返ってきてしまうのです。


 例えば、社内FA制度を導入したが、結果として社内人気投票のように市場価値が上がりそうな部署へ希望が殺到することは会社にとって良いことなのでしょうか?社内ベンチャーにしても、アイデアコンテストのようになってしまう例も多く、既存事業との関係や将来的な取り扱いまでしっかりと考えている会社は多くないようです。また、異動希望が多く出る部署は、上司のマネジメントが悪いなどといって済ませてしまって、会社はよくなるのでしょうか?


 もちろん、だからといってやらない方がいいという訳ではありません。何もしないと、全体のモチベーション低下を招いたり、才能ある人材を塩漬けにしたりということになってしまうのです。


 会社と個人の緊張関係の中で、これらの施策をお互いにとってメリットがあるように運用する為のポイントをここでは2つあげてみたいと思います。


 まずは、人事部の高い政策管理能力です。すなわち、ある程度落し所も考えながら、状況に応じて場を盛り上げたり冷やしたりすることが出来なければなりません。従来の制度管理的な機能から一歩踏み込むことが求められています。


 次に、社員と会社が「自己認識」を共有することです。すなわち、出来る人には何がどこまで出来るのか、出来ない人には何が出来ないかを明確に認識してもらうことです。それがないと結局、社内のキャリア形成もミスマッチが続くことになりかねません。これまでの会社はこういったことを明確にすることを避けてきました。しかし、こういった施策に限らず、これから会社と社員の新たな関係を築き、お互いにとって納得性のある処遇・育成をしていくには、敢えて言いにくい部分も明らかにしていくような、これまでとは異なる種類のコミュニケーションが求められているのです。
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