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コラム「研究員のココロ」

転換点に立つ住宅メーカー

2002年02月11日 宮田雅之


 大手住宅メーカーの殖産住宅相互は1月13日、東京地裁に民事再生法の適用を申請したと発表した。負債総額は135億円。1999年3月期に総額650億円の債務免除を受けたが、自主再建を断念した。

 昨今の経営破綻企業の事例をみると、バブル時の不動産投資の失敗に起因するものに加え、景気低迷による本業の業績悪化に因るものが目立つ。

 住宅生産団体連合会が会員会社の営業責任者に対して行った「景況感調査」によると、2002年度の新設住宅着工戸数の平均予測値は109.8万戸と35 年ぶりに110万戸割れとなった。景気先行きの不透明感による住宅取得マインドの冷え込みに対する住宅メーカーの危機感の表れと読み取れる。

 住宅メーカーの代表的な営業スタイルとして「住宅展示場」を起点とした手法が挙げられる。大手ともなると全国で数百のモデルハウスを有し、年間の維持コストは数十億円レベルにのぼる。しかし、かつての有効な販売チャネルも、売上の伸び悩む企業にとって大きな経営上の負担となっている。

 モデルハウスは、住宅展示場内の競合他社に見劣りがしないように豪華な装飾が施されるなど、消費者にとって非現実的な建物が少なくない。また、ひと度来場者アンケートに記名すると、営業マンによる夜討ち朝駆け訪問攻勢に会うという話も珍しくない。これら建物維持や人海戦術にかかる営業コストは価格に転嫁されるわけであるが、消費者の納得が得られているか疑問である。

 住宅メーカーの中には、新たな低コストチャネルとしてインターネットを介した販売手法を模索する動きが出始めている。だが「住宅そのもののネット販売は十年先になっても定着していないだろう」と断言する某住宅メーカーのトップの発言にもあるように、高額で、変更打合せの発生する商品のネット販売を定着させるには、相当な工夫が必要なことも事実である。

 しかし、プレハブメーカーの中には、通常商品より1~2割低価格であることをアピールし、年間200棟程度の販売に目途をつけた会社も出てきている。

 昨今の消費者行動の特徴は、「特徴のない商品は徹底的に買い叩かれ」「他社にない付加価値が認められた商品は利益を乗せても売れる」いわゆる二極化傾向にある、という理解が一般化している。

 住宅のネット販売を手掛けるに際しても、モデルハウス等にかかっていた営業コスト分を値下げするという観点だけでは早晩に差別性を失い、価格競争に巻き込まれてしまうことが想定される。

 一方、住宅はその商品の複雑性から、供給サイドが消費者に比べ圧倒的に情報を握ってきたが、ネットの普及が起爆剤となって、消費者主導のマーケットへ大きく変貌を遂げる可能性が指摘できる。

 そのような事態になれば、住宅メーカーは、おのずと「価格合理性」「プロセスの透明性」さらには「企業の独自性(他社にない付加価値の提供)」を消費者からより強く求められることになろう。

 かつて、昔ながらの工務店経営に「メーカーの論理」を導入して住宅メーカーが成長を遂げた。アイデアと実行力に富んだ企業(資本力には劣る中小零細工務店や設計事務所、あるいは全くの異業種からの新規参入者も含め)が、新たなビジネスモデルを創造し、住宅業界版「ユニクロ現象」「エルメス現象」を巻き起こすことを多くの消費者が待ち望んでいる。
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