コラム「研究員のココロ」
商店街の情報化推進 × 地域のNPO = 商店街の活性化 の可能性
2002年02月04日 矢ヶ崎 紀子
全国には約12,000の商店街がある。(全国商店街振興組合調査)その多くは、長引く景気の低迷や、中心市街地が衰退しているといった都市問題等の影響のもとで、新たな商店街活性化の方向を模索している。
その主な方向性のなかは、いかに地域に密着した商店街となるかというテーマがある。従来のようにただモノを並べて売ればいいという時代ではない今日において、地域密着型の、いわゆる近隣の住民が毎日足を運んでくれるような商店街となるためにはどうしたらよいのかについて、心有る商店街は真剣に考え始めている。
「この商店街を土日にぶらぶらするのが、地域の若者の間で最もかっこいいことだった時代があるんですよ。」「昔はあまりの人出に、向かいの商店に行くにも、人を掻き分けて斜めに進まないといけなかったんだがね。今は賑わいがないね。」全国の商店街にインタビュー調査を行なう機会があった筆者は、よく、こんな言葉を聞いた。
その往時と現在では、なにが違うのだろうか。もちろん、社会経済環境のファンダメンタルな部分が違っているが、最も大きな理由は、商店街が魅力ある情報を発信することができなくなっていることではないだろうか。
人はなんらかの情報を求めて集ってくる。ゆえに、賑わい空間を創出したければ、そこにどんな情報があるのかが最も重要なことである。しかし、渋谷の商店街は、一時期十代の若者にうける情報発信拠点だったかもしれないが、結果的には商店街の衰退を招いた。だから、単に情報があればよいというものではなく、情報の質と量によって、どんな人をどの程度の期間ひきつけることができるのかが決まってくるのだと考えられる。
では、地域密着型を志向する商店街は、どのような情報発信をしようとしているのだろうか。
多くの商店街は、仮想商店街をつくって、いつでも気軽に各個店に関する情報を入手し、ほしい商品を購入できるという仕組みづくりを行っている。これは、商店街の販促の一環であり、新しいツールの活用によって新しい顧客を呼び込もうとするものである。
この動きは、全国各地で行われており、各都道府県や場合によっては市町村が、商店街の電子化推進のために補助事業を実施して支援している。筆者の住む杉並区では、杉並インターネット協会商店街情報化研究会が、高円寺ルック商店街の情報を提供する「iモードルック」を運営している。
さて、これだけで十分だろうか? 商店が個々に十分魅力的な商店街であれば、仮想商店街は楽しい綺羅の仮想空間になる。しかし、低迷している商店街の場合には?
この問に対する回答の一つとして、地域のNPOと連携した情報発信拠点づくりの動きを紹介したい。福岡県久留米市の六ツ門商店街には、アメリカのシニアネットの日本版である特定非営利法人シニアネット久留米が商店街と連携して「シニア情報プラザ久留米」を運営している。
ここは、元気高齢者向けのパソコン教室を開催するとともに、地域の高齢者が生きがいづくり・仲間づくりを行うための情報プラザともなっている。また、地元の銀行と協力して年金等相談コーナーも設置されている。これらの総合的な情報がウェブ上に掲載されており、プラザ会員の高齢者はパソコン教室で修得した技術を活用して情報の受発信を行っている。
この情報発信拠点を通じて商店街活性化の具体的な実績を出していくことが今後の課題であるが、地域の高齢者にとって魅力ある商店街として生まれ変わろうとしている六ツ門商店街ならではの取組みであると言えよう。
この取組みから学べることは、情報発信の手段として、プラザという実際の場と、現在最も多くの人が関心をよせているインターネットとを組み合わせていることである。そして、コンテンツについては、地域のNPOと協力していることである。
現在地域の様々な動きやニーズを最もよく把握しているのは、行政でも、商店街でも、企業でもなく、その地域で活動しているNPOの人々なのである。筆者は、これらの要素をうまく組み合わせ、さらに、地域の個性というスパイスを効かせることによって、商店街が人をひきつける情報の場として再生することが可能となると大きな期待をよせている。
出典:「japan.internet.comパブリック」2001年12月25日
URL:http://japan.internet.com/public/