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コラム「研究員のココロ」

NPOは『電子蜘蛛の巣』の夢を見るか

2001年12月10日 東一洋


旭化成の情報サービス事業が、「リナックス型」開発手法を思い起こすような、市民の知恵を活用した取り組みにより、これまで敬遠されてきたNPO向け市場の見方に一石を投じた。簡単に紹介すると、旭化成の「元気365」という地域活動支援系ソフトウェア(地域の活動団体と一般市民を結びつける所謂マッチングのための支援ソフト)が、地域の様々な団体からの指摘を受けながら改良を続け、地域NPOの経済的自立の促進とソフトウェアの知名度向上(企業にとってのブランド向上)の「Win-Win」の関係を築きつつあり、同社のネット事業拡大を加速する基盤になる可能性があるというもの。詳細については記事情報を参照されたい [日経産業新聞 2001.10.30刊 ]。

 実は筆者は自分の在住する市における「市民活動センター」の設立に現在関わっている。現在このような「支援センター」の設立は行政にとってある種ブームのようなものとなっており、「市民との協働」というキーワードのもと、全国各地でこのようなセンターが設立されている。筆者の住む市は、全国に先駆けて「NPO条例」が施行され、市独自のNPO登録制度を持ち市の事業委託への参画を担保する等「NPO業界」ではかなり有名な市である。「市民活動センター」はそのような経緯を誇る市にとっては、是非とも必要な機能の一つであり、現在ある意味では「行政主導型で市民主導型の支援センターが整備されつつある」ともいうべき複雑な状況を呈している。
 このセンターの主要な機能は、1)市民活動に関する情報収集・発信、2)行政と市民活動団体の協働促進、3)企業等との協働促進、4)市民活動の活性化と自立促進、5)日常的活動支援、6)ネットワーク促進、7)コミュニティ・シンクタンクの7機能となっている。

 記事にある宮崎県延岡市における取り組みを読み、「地域における市民活動の活性化」という同じような最終目標に対するアプローチとしての行政的手法の渦中に身を置く者として、考えさせられることが多く、本記事を取り上げることとした次第である。それは旭化成のa href="http://www.genki365.com/">「元気365」の仕組みそのものが、市民活動支援センターの中核的機能の情報化の姿そのものであるからである。

 行政がこのようなセンターを創ろうと意思決定した場合、勿論その整備手法についての内外の意見を参考とした上で、「公設民営」というスタイルを採ることが多い。ハードとしての施設や設備については行政が用意しましょう、しかし後の管理運営については民間(NPO)にやってもらいましょう、というわけだ。一見至極合理的に見えるこの整備手法そのものに実は大きな陥穽があることはまた次の論考にまわすとして、このアプローチは実はかなりの時間と労力を要する。年度予算で走る行政側の論理とセンターの運営(様々な市民活動団体を支援しようとする市民活動)の実現にどうしてもタイムラグが生じるからである。そのタイムラグを埋めるために関係者(勿論行政担当者も含まれる)は膨大なエネルギーを費やすことになる。またそのことが市民活動間での摩擦や軋轢を生じるケースさえある。
 このように、本来果たすべき機能にたどり着く前の段階で関係者間でかなりの疲弊を伴うのが行政的手法である。

 しかしながら、記事にあるような企業の実験としてのソフトウェア改良によるアプローチでは、そのようなことがないのではないかと思われる。勿論、色々な団体から注文を受け、それをプログラムに置き換える旭化成のSEやプログラマー諸氏にとっては「もうええ加減にしてくれ」と思うような時もあるかもしれないが、「それで給料貰ってるんでしょ」と言われれば言い返す言葉もあるまい。
民間的手法とは、上記のような疲弊を地域が民間企業にアウトソーシングしているようなものと考えることも可能だ。

 それではこのようなアプローチによる市民活動支援機能の出来栄えはどうであろうか。行政的手法では、運営組織やその顔となる事務局長を中心とする人的ネットワークが準備の段階で形成され、それが最大の資産となろう。それはある意味でセンターを中心とするネットワークのようなものと理解される。
では旭化成の「元気365」ではどうか。そこにセンター的インタミディアリ(仲介者)を中心としたネットワークは形成されず、個々の市民活動と市民を結ぶ様々なネットワークがあたかも蜘蛛の巣のように出来上がっていくのではないだろうか。地域への経済的還元の仕組みはまるで「地域通貨」のようなものだ。そして最大の特徴はインターネットという最大のNPO的インフラを活用している点である。

 ネットワーク論を持ち出すまでもなく、前者の場合「人」に依存するがゆえに、その人が機能しなくなった場合のダメージは甚大である(まるで一昔前のホストコンピュータのようだ)。後者の場合はそのようなリスクは、ない。Webと同じくリダンダンシー(冗長さ)が内包されている。しかし、リテラシーという参入障壁が実在することも確かだ。

 このように現在、支援センター設立に関わる者として民間による地域活動の活性化アプローチに実は大きな魅力を感じている。しかしながら行政的なセンターの整備による活性化手法が間違っているとは考えない。活動場所がないとか、経営指導を求めるNPOに対し手を差し伸べることは無駄ではない。ただ、市民活動の活性化のためにネットワークを構築していくという機能を考えると、今後行政もこのような民間的手法を大いに参考とすべきではないだろうか。

 かつてマクルーハンは「メディアはメッセージである」と説いた。筆者は常々「NPOとはメディアだ」と考えている。ならば「NPOとはメッセージ」である。その文脈においてインターネットというツールは、NPOにとって必要不可欠なものであり、NPOそのものなのではないか。NPOはWWW(電子蜘蛛の巣)の夢を毎夜見るのであろう。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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