コラム「研究員のココロ」
地域経済における人的資源の活用・管理
2003年06月23日 河野 俊明
1.人的資源をめぐる競争の激化
これまで日本経済の主役は「個人」ではなく、企業、自治体のような「組織」であった。そのため、地域経済といった単位で、人的資源の重要性や、その活用・管理などについて議論されることは少なかったのである。
しかし、産業構造の転換の動きに連動するように、人的資源の重要性が地域経済の中でも高まっており、産業競争力と直結する要素となっている。その一方、国際化の進展によって、人的資源が世界的な拡がりの中で流動するようになり、人的資源の獲得・確保をめぐる競争条件は次第に厳しいものになっている。地域の活力維持に欠かせない人的資源を必要量確保することは、もはや容易なことではない。
2.地域経済に求められる人的資源とは
地域経済が活性化するためには、「地域産業の高付加価値化、サービス化」、「新産業の創出」、「国際的な投資や交流の促進」などの施策が重要であると考えられる。これらの実現のためには、それぞれに専門的な知識、高度なノウハウを有する人的資源が必要になることはもちろんであり、大学院教育など専門の高等教育の機能強化が叫ばれるゆえんである。さらに、これらの人的資源が、有効な人的ネットワーク、活きた知的ネットワークを地域経済との間に有する存在であるか否か、がさらに重要なポイントである。
3.人的資源に係わる障害
地域の立場からは、人的資源の現在の分布が主として東京都市圏に偏っており、地方部では絶対的な不足が発生していることを問題点として指摘することができる。
例えば、東京と関西圏(2府4県)の間には、現在、就業者に占める大卒者の割合に10%近い格差が生じているのである。そして、地域から人的資源が流出する傾向は、一向におさまる気配が見られない。その一方、地域の側においても、人的資源を教育・訓練し、定着させるための取り組みにおいて、大学、企業など関係機関の連携が必ずしも十分でなかったうえに、個人の能力発揮に際して、能力発揮のための場の未整備、労働制度上の制約、資格に係わる規制、などといった社会制度に関わる障害の存在を指摘することができる。
4.人的資源を活用・管理する2つの方法
地域において人的資源の活用・管理を強化するためには、次の2つの方法が考えられる。一つは、地域で人的資源の育成に努め、量的な確保を目指す方法、もう一つは、現在の数少ない人的資源の能力を最大限発揮できるような環境整備を通じて、絶対量の少なさをカバーする方法である。
人的資源を育成し絶対量を確保するためには、人的資源の供給力、及び調達力の強化、滞留・交流の促進、能力の向上、ネットワークの強化などに積極的に取り組む必要がある。具体的には、大学や行政、経済界が中心となり、地域に散在、ないしは潜在している人的資源を束ね、教育し、活躍するための拠点を整備する。例えば、大学院の設置やコミュニティカレッジのような地域での教育訓練機能の強化、国際的中枢機関の誘導、地域シンクタンクの統合・機能強化、などが考えられる。
地域が量的なハンディキャップをカバーするためには、企業・行政が中心となって、多様な能力の発揮を促すしくみ・制度づくりを進める。例えば、個人の能力を発揮する時間・選択肢を増やすための積極的ワークシェアリングの推進、能力発揮の受け皿であるNPOの活動やコミュニティビジネスなどを促す規制緩和の推進、などが考えられる。
今後、地域が人的資源を上手く管理し活用していくためには、その地域の産業人や大学、行政などが人的資源の重要性について認識を改めるとともに、地域が人的資源を大切にする姿勢を積極的に情報発信することが重要である。そのうえで、地域の経済活動と人的資源とのネットワークをより強固なものにするための個性的な取り組みを戦略的に推進していくことが求められる
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。