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コラム「研究員のココロ」

医療制度改革に地方分権の視点を-その2

2003年05月19日 志水武史


補助金廃止に伴う問題点

 国保に対する補助金が、国保財政の健全化やサービスの多様化などの点で問題があることは前回ふれた。しかし、実際問題として、補助金に代わる財源がないまま補助金を廃止することは、国保保険者(市町村)全体の過半数が赤字という現状の下で困難であるばかりでなく、これまで補助金が繕ってきた国保制度の構造的問題、すなわち、市町村の財政格差や財政基盤の脆弱さといった問題を一挙に噴出させることになる。

 したがって、国保に対する補助金制度のあり方を見直す場合、何らかの方法で補助金に代わる財源を確保する必要がある。財源が確保できない場合、その市町村においては国保の給付率を大幅に削減しなければならず、地域住民の反発が強まることは避けられない。

必要な税源移譲

 補助金に代わる財源を確保するための方法として、まず考えられるのは国から地方への税源移譲である。

 税源移譲については難航が予想されるが、国は国保事業の健全な運営に対する責任を果たすため、補助金の形ではなく、税源移譲の形で市町村の国保財政を支援することが求められる。地方自治に対する住民の当事者意識を高める観点から、所得税(国税)を減税する一方で個人住民税(地方税)などを拡充することのほか、喫煙や自動車の排ガスによる健康被害の補填という観点から、国のたばこ税や道路特定財源の一部を地方に移譲することも考えられよう。
 
 一方の市町村も国からの税源移譲に頼るだけでなく、自治体全体の財政運営を抜本的に見直すことが求められる。例えば、現行の地方税法の下で自らの創意工夫による独自課税を実施することのほか、地域住民のコンセンサスに基づいて、国保事業に比べて優先度の低い自治体業務を縮小することにより、一般会計から国保事業特別会計への繰入額を増やすこと、さらには保険料(税)を引き上げることなどを検討すべきである。

国保の構造的問題の解決に必要なこと~保険者規模の拡大と格差の是認~

 ただし、財源移譲や独自課税の形で財源を確保した場合でも、補助金廃止・削減に伴う国保の構造的問題(財政格差、財政基盤の脆弱さ)は完全には解消されず、逆に財政格差の問題はさらに大きくなるおそれがある点に留意しなければならない。

 もっとも、財政基盤の脆弱さという問題については、すでに厚生労働省が市町村合併を推し進めると同時に、国保保険者を都道府県単位にまとめることで財政基盤を安定させる考え方を示している。こうした対策に加えて、医師、税理士、建設業等の同業事業者により構成される、財政基盤の強固な「国保組合」を市町村国保に統合すれば、国保の財政基盤は一層強化されると考えられる。

 問題は拡大する財政格差をどうするかということである。筆者はこの問題について、財政格差の完全な解消を目指すのではなく、地方分権の下で格差が生じるのは当然として、行政側も住民側も適切な格差をむしろ積極的に認めるような意識転換が必要だと考えている。

 もちろん、提供されるサービスの内容は市町村によって異なったものとなるだろうが、こうした差異の発生が市町村同士の競争を促進し、結果としてサービスの質がさらに向上することも期待できる。ただし、財政難を理由に、地域において必要な医療サービスまでもが提供されなくなるという事態を避けるため、国は最低限給付すべき医療サービスの内容を設定し、それを各市町村に遵守させる仕組みも必要だ。

おわりに

 どのような医療制度改革を行なおうとも、基礎となる保険者(各市町村)の足腰(財政における自主・自立)が弱いままであっては制度を支えることはできない。市町村の保険財政に対する責任が曖昧なままでは、今後の医療費支出に歯止めをかけることは困難になる。国保事業における地方分権は、保険者の足腰を強化する上で不可欠の施策である。

 国としても今後、市町村に税源を移譲するだけでなく、市町村が保険者としての機能を十分発揮できるよう、国保運営に対する保険者の権限を大幅に拡大することが求められる。具体的には、診療報酬点数の加算・割引等についての医療提供者との直接交渉、保険医の指定・解除、医療特区における株式会社の病院経営の認可等に関する権限等を保険者に認めることなどを検討すべきであろう。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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