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コラム「研究員のココロ」

医療制度改革に地方分権の視点を-その1

2003年05月19日 志水武史


なぜ国保財政が悪化するのか

自営業者、農業者、企業退職者など国民の3分の1に相当する約4,337万人(2001年度末時点)が加入する国民健康保険(以下、国保)は、市町村が保険者となって事業を営んでいる。ところが近年は市町村の国保財政が悪化し、国保事業の存続が危ぶまれている。

 国保財政が悪化する原因は主に、急速な高齢化の進展により医療費支出が増加する一方、長引く不況のあおりを受けて国保保険料(税)収入が伸び悩んでいることにあるとされる。
しかし、国保財政の悪化はこうした社会環境の変化だけでなく、国保に対する国の補助金制度にも一因があるように思われる。

補助金に起因する国民健康保険の問題点

 国保に対する補助金は年間約3.1兆円。国保事業の収入総額約6.9兆円の半分近い金額である。国保だけがこうした多額の補助金を受けている理由として、市町村によって財政力が大きく異なること、相対的に低所得の被保険者が多く財政基盤が弱いことなどが指摘されている。

 だが、このような補助金の一部は、市町村の経営努力により抑制できる医療費まで自動的に調整する機能を持つ。このため、市町村では医療の効率化等を通じた歳出抑制や保険料(税)の徴収に向けたインセンティブが働きにくくなり、結果として国保財政の悪化を招いている可能性がある。

 さらに、国保に対する補助金は、地域毎の医療行政サービスの多様化を妨げるおそれもある。法律上、市町村は地域住民のニーズに応じて、国保の患者負担割合の引き下げ、任意給付の実施、保険料の減免などを独自の判断に基づいて実施することができる。しかし、実際に市町村が地域住民の患者負担割合を軽減する場合には、補助金が減額される仕組みになっている。このため、市町村においては、本来であれば受けられる補助金を放棄してまでサービスの多様化(地域住民にとってサービスの改善)に取り組むインセンティブが失われることになる。

国保事業の地方分権によるメリット

 国保に対する補助金のあり方を見直すことにより、前述のような財政悪化やサービスの画一化の問題が多少なりとも解決に向かうだけでなく、国保事業における受益と負担の関係が明確になることで、国保運営や地方自治のあり方が変わることが期待される。すなわち、国保の財源の大部分を各市町村において賄うことになった場合、保険者である市町村と地域住民の間に国保財政をめぐる緊張が高まり、両者の国保事業運営に対する当事者意識が高まる。

 市町村は地域住民の医療ニーズに一層耳を傾け、ローカル・オプティマムに基づくサービスを提供することが求められる。一方の地域住民は単により良いサービスを要求するだけでなく、自分達のコミュニティの費用は自分達で賄うとともに、自分達の支払った税や保険料の使用状況についても厳しく監視するという健全なパブリック精神を確立することが必要になる。

 国保事業の実質的な地方分権が達成されることにより、中央と地方の医療行政における役割分担も変化する。補助金に関わる事務処理などが減少するため、その分、中央政府は米国に比べて遅れが指摘されている医療技術研究・開発、各種データ分析、新薬認可、医師の資質向上等の医療行政に注力できるようになる。補助金の見直しによる国保事業の地方分権は、地域住民のみならず、国民全体の厚生の向上にも資することが期待される。

(「医療制度改革に地方分権の視点を-その2」に続く
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