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コラム「研究員のココロ」

組織変革の為の社内アンケート調査の活用法

2003年04月21日 山本大介


1.はじめに

 相変わらず出口の見えない苦境にある日本企業だが、一部企業においては徹底したコスト削減への取組みが効を奏し、当面の利益を確保することに成功しているようだ。しかしそれらの「回復組」企業においても、縮小均衡体制に留まらず再び企業を成長軌道に乗せるには現状の組織に限界を感じている様子が感じられる。
 本稿では、企業の現有組織が「より高い生産性、より高い価値創造性」を持った組織に生まれ変わる為の第一ステップとして、「社内アンケート調査」を活用することを提案する。

2.社内アンケート調査の意義

 組織変革論の第一人者として知られるハーバード大のJohn P. Kotter教授は、「組織変革の8つのプロセス」を提唱しているが(参考文献)、その第一プロセスでは「危機意識を高める」と示されている。このことはもちろん新しい発見ではなく、組織変革を試みる誰もが取り組んでいることである。しかしこの第一プロセスをクリアすることができないまま先に進もうとして失敗するケースが後を立たない。それは何故だろうか。「危機意識」は誰かに強いられるものではなく、「自ら気づく」ものだからだ。ではどうすれば自ら気づくか。自らの状態を客観的に認識すればよい。自分はどんなことを考えているのか。自分はどんなことをしているのか。社員はアンケートで自ら手を動かすことで、自らの現状を形にし認識することになる。

 社内アンケート調査は社員に自らの状態を認識してもらう極めて有効な方法である。たとえ結果がどの本にも書いてあるような指摘や提言であっても、それが自分たちの意見の集約であるという認識があれば人は受容しやすい。そして社員が自らの状態を認識して変革の必要性を自覚すれば、経営層へ働きかける社員の声も強くなる。経営層にとっても、通常なかなか見えにくい社内の実態を把握する絶好の機会となる。変革を進めるために組織全体が自ら気づく助けとなることが社内アンケート調査の最大の意義である。

3.社内アンケート調査の利点

 組織変革の為にはまず社内の現状把握が必須だが、この作業は変革プロジェクトの担当メンバーの個人的な意見や抽出された対象者に対するヒアリングを拠り所とすることが多い。しかしこれらの手法では社内全体の現状を正確に把握するには視点が不足していると言わざるを得ないし、少数の人間による状況解釈に不安があることも否定できない。その結果、問題の解決が誤った方向に進む恐れがあるだけでなく、社内に対する説得力が薄まってしまう。これに対し社内アンケート調査には次の利点がある。

 利点1.一度に大勢の組織構成員の意見を汲み取ることができる。社員全員に回答を求めることも可能である。
 利点2.会議形式では周囲の目が気になり本音を話すことがなかなかできないが、一人で冷静に回答するアンケートは本音の回答が得られる。

さらに、アンケートに選択回答形式を採用すれば、以下の利点も得られる。

 利点3.全て数量的に換算可能であり、定量的な分析結果を出すことができる。
 利点4.選択回答形式は自由回答形式と比較して回答が容易であり、全ての設問にわたって真摯な回答が得らやすい。

これらの利点の結果として次の2つの効果が期待できる。

 効果1.より正確な問題把握
 効果2.強力な説得力

4.社内アンケート調査が備えるべき10の条件

 社内アンケート調査は、組織変革のための調査として必要とされる条件を網羅しつつ、アンケートの持つ特性を最大限に活用しなければならない。我々は、これまでのコンサルティング実績から、有効なアンケートとは以下のような条件を備えるべきだと考えている。

 <質問項目の内容について>
 (1)顧客との接点となるマーケティング、営業、サポートサービスなどのフロント機能の活動状況、管理体制の状況を把握できること
 (2)社内の連携状況(ライン/スタッフ各組織内、ライン-スタッフ間)が把握できること
 (3)組織を支える人材育成、評価体制、情報化レベルの現状が把握できること
 (4)(1)~(3)の現状と、業績との関連性を把握できること
 (5)何より、全ての社員が容易に質問の意図を正しく理解し回答できること

 <アンケートの形式について>
 (6)大半の質問は複数段階の選択回答制(回答の段階数は揃える)であること
 (7)無記名とした上で、分析に必要な年齢層や所属部署についてある程度の属性情報は収集すること

 <分析について>
 (8)分析はあくまで個人を特定せず、組織としての現状を客観的に記述すること
 (9)分析結果及び分析結果を受けて策定された課題対策案は社内に公表し、回答者にフィードバックすること

 <実施方法について>
 (10)回答要請については回答者からの最大限の協力が得られる方法を選択する(トップダウンでの回答要請あるいはボトムアップでの取り組み,電子媒体を使用あるいは紙媒体を使用,など)こと

 経験上の意見としては、これらの条件全てを備えた調査設計、実施、分析、報告の各作業にはかなり負荷がかかる。しかし大規模な組織変革の第一歩という調査の持つ意味を考えれば、これらの作業に相応しい人材を調査の企画段階から投入し、調査報告以後の変革プロセスの推進にもこれらの人材を参画せしめていくことが望ましい。

5.社内アンケート調査結果の活用例

 アンケート調査を社内の危機意識喚起に用いた例を一つ紹介しておきたい。

(大手メーカーA社の事例)
同社ではこれまで本部主導で変革の取り組みをしてきたものの現場に受け入れられず行き詰まりを感じていた。そこで、経営トップ層のサポートのもと、営業部門の全社員1000名以上を対象に社内アンケートを実施した。その上で企画部門スタッフが我々と共に分析した結果を手に全国10営業支店を訪問し、支店長をはじめとする現場の人々に対して数時間にも及ぶ説明を行った。
 最初は分析に対する疑念もいくつか出された。また不本意で認めたくない部分があることから反発も発生した。しかし、粘り強い説明により現場の人々は「自分たちの意見を集約した」会社の現状を認識しはじめた。そして現状を認識した上で、その解決のための意見が現場から出されるようになったのである。このアンケート結果は直接説明を受けていない社員の間でも話題になり、様々な場で説明会が繰り返された。
 この後、同社では、全社の営業体制変革に一石を投じる活動が実際に実行に移された。この活動はアンケート調査による社内の意識の高まりを背景に円滑に受け止められ、現在もなお活動は継続中である。

6.おわりに

 本稿では社内組織の変革にあたって社内アンケート調査という手法で変革の方向性を探ることを提案した。アンケートに限らないが、社内で大規模に実施された調査結果は実に貴重なものだ。どのように調査結果を解釈し、変革プロセスを設計し、プロセスを推し進めていくかは実施企業の意志に委ねられる。しかし貴重な調査結果を最大限に活用していくためには調査チーム内での意見交換に留まらず、社内広くの意見を募ることが必須だ。普段現場を直接見る機会に恵まれない経営トップ層にとっては客観的で精緻な分析結果が意思決定の大きな助けになる。また現場としても、自分たちが回答した結果なのだから、分析結果に違和感を持つことは少ない。問題意識が顕在化され、変革の必要性が現場で語られるようにもなる。このように、変革のうねりをトップから最前線まで行き渡らせることこそが変革プロセス推進を成功に導く鍵なのである。
<参考文献>「企業変革力」John P.Kotter著、梅津祐良訳、日経BP社(2002)
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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