コラム「研究員のココロ」
電気・紙・ゴミだけじゃない、やれることはまだある環境目標
2003年04月21日 三浦 利幸
日本適合性認定協会の調べによれば、日本国内のISO14001認証取得件数は、2002年末の時点で11,022件となったようである。環境に対する関心が益々高まる時勢において、ISO14001認証取得を目指す組織はまだまだ増加する傾向にあるようだ。ISO14001は1996年に制定され、早くから取り組んできた組織は、既に認証取得から数年が経過していることになるが、そのような組織の一部からは、「環境目標としてやることがだんだん無くなってきて、継続的改善も限界に近づいてきた」というような話を聴くことが少なくない。
製品(サービスを含む)の設計を行っている組織の場合は、製品のライフサイクルを考慮の上で、より環境負荷の小さい製品を設計的に工夫する余地が大きく、改善のネタはいろいろとあるようだ。また製造、建設、流通などを行っている、特に比較的大きな組織であれば、歩留やエネルギー効率の向上や、廃棄物・有害物質の削減など、やはり改善のテーマはいろいろと出てきているようである。
しかし事務作業が中心の組織の場合、さらには製造・建設・流通などの業種であっても、設計を行っていなかったり、手作業が中心であったりする場合、削減できる環境負荷がなかなかみつからないということが少なくないようだ。このような組織では多くの場合、仕入れ・販売・サービス提供などを行う中で、環境負荷を持つ物品が目の前を通過しているのだが、使用量の削減や素材の変更をしようとしても手の打ちようがない、というのがよくあるパターンである。
上記のような組織の大半は、使用する電力と紙の削減を中心に環境目標を立て、冷暖房の温度設定、こまめな消灯、紙の両面使用を行い、当初は改善効果が現れてくるのだが、しばらくすると限界がきて、そこから先、何をすればいいのか分からなくなってしまう、というのが現状のようだ。他に実施されているのは、ゴミの分別と可能なものはリサイクル、それから紙類・文具・OA機器・オフィス家具などのグリーン購入くらいであろうか。しかしこれらの改善にも、ある程度で限界が来る。
このような組織の場合、直接的に環境負荷を低減することばかりに気を取られず、社会全体の環境負荷を低減させるために、自組織に何ができるかを考えるとよい。自組織が環境に負荷をかけないことが重要なのではなく、「環境負荷の小さい社会の確立のために自組織がどのように貢献できるか」が大切なことである。もちろん、この考え方は環境負荷の大小に関わらず、すべての組織に共通するものである。そしてこのような観点では、環境負荷の大きい活動を行っている取引先に対して負荷低減を働きかけることが、大きな効果を生むだろう。
取引先に対する働きかけとしては、環境負荷の小さい製品の開発・供給、環境負荷の小さい活動(製造、流通、事務作業など)の実施、ISO14001認証取得などを仕入先・購入先に対して呼びかけたり指導したりすることが考えられる。このような活動は、環境対策先進大手企業では、既にかなりのレベルで実施しているが、このようなことは大手企業だけに許されたことではなく、中小規模の企業が行ってもまったく構わない。
しかし働きかけの対象は、仕入先・購入先とは限らない。顧客に対しても働きかける余地は十分にある。もちろん、売上を確保し続けるためには、顧客の要求を満たさなければならないのは当然で、顧客から環境負荷の大きい製品を受注した場合、その製品を供給するのは組織の務めとなる。しかし顧客が注文を決定する前の段階に関わり、環境対応の重要性を説き、環境負荷の小さい製品を多少高価であっても顧客が要求したくなるように働きかけていくことは可能である。実際には顧客に言われるままということが少なくないようであり、あまり頑なな態度を取って失注してしまっては元も子もないが、地道に環境情報を提供したり、改善のための提案をしたりしながら、顧客の意識に働きかけるということが社会にとって有益となるだろう。このような働きかけは、自組織の上位に本部機能などが存在し、取扱商品や設備などを規定している場合には、同様のことが可能となる。
最終的には環境負荷の低減は、取引先が働きかけに応じてくれなければ実現されないが、徐々に巻き込んでいくことを目指して、時間をかけて実施していく目標とすればよい(そうすれば継続的改善のテーマにも、当分は困らないことになる)。また、取引先において実現された環境負荷の低減が自組織には直接関係しないものであっても、それは自組織の働きかけが社会全体の環境負荷低減に寄与した成果として考えればよい。
それから取引先への働きかけ以外にも、世の中一般に対して、環境負荷の低減を働きかけることも可能である。環境に優しい生活行動に関する知識などを、商品に表示したり、広告を行ったりして情報発信することも、社会全体に貢献することである。
また、公共スペースの清掃、植林など、組織が環境に関連するボランティア活動を推進することも目標となり得る。それから社員の社外環境ボランティア活動への参加を支援することや、環境活動を行っている団体を支援することなども、社会に貢献することにつながる。
環境問題に真摯に向き合う意思を持った組織であるなら、社会全体に目を向けて、自組織が果たすべき役割を考え、構築した環境マネジメントシステムを有効に生かして頂きたいものである。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。