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コラム「研究員のココロ」

コミュニティ・ビジネスによる地域活性化

2003年04月14日 上田真弓


 我が国においては、少子高齢化社会の到来、情報化の進展、女性の社会進出、社会の成熟化と市民参加の増加、さらには経済のグローバル化による地場産業の衰退や雇用の場の喪失など、急激に生活やワークスタイルなどの労働環境が変化している。その一方において地域では、中心市街地の空洞化や農山漁村の過疎化などの地域社会の崩壊、さらには国と地方自治体の財政悪化など、地域をとりまく環境は悪化かつ複雑化しており、従来の行政の枠組みでは解決できない「きめ細やかな」対応が求められている。

コミュニティ・ビジネスとは

 このような状況の中で、「コミュニティ・ビジネス」という言葉が近年、市民活動による地域振興の新たなキーワードとして大きく浮上している。コミュニティ・ビジネスに関する定義は様々に行われているが、これらを整理すると以下の要素を持つものといえる。

・ コミュニティ・ビジネスの主体は地域住民である。
・ 取り組むテーマは、地域が抱える課題や住民ニーズである。
・ 活動の形態は、継続的な事業である。
・ 期待される効果は、地域の問題を解決して、雇用を生み出すことにある。

 これらの要素から、コミュニティ・ビジネスの定義を試みると以下となる。

 コミュニティ・ビジネスとは、地域住民が主体となり、地域が抱える問題を、ビジネスとして継続的に取り組むことにより、地域の問題を解決し、新たな雇用を作り出し、地域を元気にする事業のことである。

コミュニティ・ビジネスの特徴

 コミュニティ・ビジネスの特徴としては、まず活動の主体が従来の企業社会の担い手ではない、地域の主婦や高齢者、早期退職者などである。また最近では、コミュニティ・ビジネスの提唱者である細内信孝氏は「多足の"わらじ"」という、サラリーマンなどが会社勤務しながら、地域をベースに仕事を作り出せる可能性も示唆しており、いづれにしても従来型の企業社会における雇用対象ではなかった地域社会の担い手である住民である。さらにそのテーマも地域の身近な問題であり、活動形態もボランティア活動とは異なり、赤字を出さない程度の最低限の利益を生み出し、事業として成立させることを重視している。コミュニティ・ビジネスの行動価値基準も、営利第一ではなく、地域社会のためになる事業を通じて、意義や意味を追求していくことにある。事業規模については、「地域の中で顔の見える関係」が前提となり、「等身大のビジネス」とも言われている。

・コミュニティ・ビジネスの特徴 項目 内容
活動の主体 地域住民(高齢者、主婦、早期退職者など)が主体である
取り組みテーマ 地域の問題を解決する
活動の形態 事業に責任が持て、継続的に活動し、赤字を出さない程度の利益を出す、
事業(ビジネス)形態として成立させる
行動の価値基準 地域や人のためなど、意義や意味を追求する
活用する資源 地域資源を活用する(労働力、原材料、ノウハウ、技術など)
組織形態 NPO法人、協同組合、企業組合、有限会社などがある
利益 適正な利益(必ずしも利益第一ではない)を追求する
事業規模 地域の中で、顔の見える関係の中で、自分のできることからはじめ、
等身大で事業を展開する
事業リスク (通常の事業と比較すると)低リスクである

コミュニティ・ビジネスの効果

 コミュニティ・ビジネスを地域で起こすことによって、下記のような効果があると考えられている。

・地域問題へのきめ細かい対応
 従来の行政の組織では解決することができなかった地域社会の問題が、地域ネットワークや個人の働きにより、それぞれの地域の実情に合わせたきめ細かい対応が可能となる。特に市町村合併後における行政サービスを補完することも可能である。

・生きがい創造
 コミュニティ・ビジネスは「地域の問題を解決する」という役割を担っているために、問題解決を行うことで地域住民に感謝されるなどして、それが個人の働きがいや生きがいをつくり、自己実現へとつながり、さらには人的ネットワークの創造やコミュニティ意識を生み出すことが可能となる。

・創業活性化
 経済のグローバル化の進展により、地域外からの企業誘致が困難になりつつあり、地域内で産業を興すことが求められている。コミュニティ・ビジネスは、原材料、労働力、技術・ノウハウなど、地域の資源を活用して、取り組むことから、産業の創業活性化に貢献することができる。

・雇用の創出
 コミュニティ・ビジネスは、地域の問題解決が主眼のビジネスであるために、高齢者や主婦などの生活者が担い手の中心となっている。生活費を稼ぐための仕事というよりは、生きがいのための仕に近い側面を持ち、本業ではないために、気軽に始められるという特徴も持っている。コミュニティ・ビジネスは、今までの企業の担い手とは異なり、主婦や高齢者、学生、フリーターなど、地域の新しい担い手による創業活性化が期待される。

・地域の経済自立促進
 コミュニティ・ビジネスは住民の個別多様なニーズにこたえて、地域の固有資源をできる限り活用し、地域から働き手を募り、既存の事業者と連携するなど、地域での人材交流や経済循環を促す節点として様々な役割を果たす。個人や地域の潜在的な力を生かし、個人や地域の実情に添った形での地域経済の自立を支援するような効果が期待できる。

 コミュニティ・ビジネスは現段階においては胎動期にあり、その議論は始まったばかりであり、自治体における取り組み状況にも大きな差がある。しかしながら従来のタテワリ型行政組織において実現が困難であった、地域におけるきめ細やかな対応が可能となることや、市町村合併後の行政サービスを補完する機能を有すること、地域の雇用を創出することが可能となることなど、その効果は大きいと思われる。今後の地域活性化のキーワードとして、コミュニティ・ビジネス活動の活発化に期待したい。
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