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コラム「研究員のココロ」

「360°評価制度」導入の前にやるべきこと

2003年04月07日 角 直紀


 最近導入企業が増加している360°評価(多面評価)という仕組みは、これまで「上司が部下を評価する」という一方向だけであった人事評価に、「部下や同僚が評価する」という方向を加えるもので、マネジメントサイドにおける気付きと意識の変容を促す可能性を持つものです。

 ただ実際には、成果主義賃金の導入にあたり、「それ(我々の年収を成果に連動させる)ならば、我々にも上司を評価させてくれ」という組合からの要求に基づいて導入するケースが多いのも事実のようです。

 成果主義においては、評価の納得性は必須であり、上司による公正な評価実施への牽制として360°評価を導入しようという考え方そのものは納得できるものです。行動ベースでの観察を多方面から行なうことでコンピテンシーの客観的な評価が可能になるとも言えます。

 しかし、360°評価という仕組みはマネジメントのあり方そのものを題材とするが故に、これが有効に作用するかどうかは、その会社におけるマネジメントの状況によって大きく異なります。よく言われるような目的と方法論の整合性ももちろん大切ですが、会社の状況に応じた慎重な取組みが必要とされます。

 我々が制度導入のコンサルティングを行なう上でいつも念頭においているのは、社内にダブルスタンダードを生み出さないかという問題です。流行の単語を駆使して導入理由をつけて制度を導入しても、現場で「新しい制度は出来たかもしれないけれど、実際のところは…で、結局は何も変わらないよね。」というような声が飛び交うようでは、いくら論理的に完璧な仕組みを作りあげても意味がありません。中でも、人事制度はそこで働く生身の人間を相手にするだけに、ロジックだけではなかなか説明が付かないものです。

 特に最近、社員が十分納得しないままに成果主義の人事制度を導入した会社において、経営者・管理職層と若手・中堅社員の間の相互不信とも言える状況がよく見受けられます。トップダウンによる人事制度改革はこの時代必要な経営手段ではありますが、人に言うだけで自らの改革は後回しとか、言論を封殺するようなやり方では、互いの無理解を放置し、問題を深く潜らせてしまう結果になってしまうのです。

 こういった状況でいきなり360°評価を導入しても、本来のこの仕組みの良さが活かされるどころか公正な評価への牽制にもなりません。中途半端な導入により両者の溝が更に広がる危険性もあります。

 すなわち、評価する部下の側には、「どうせあの上司だから無駄ではないか」という無力感か、「この機会だからむしろ極端に」という過剰反応か、何れかによる評価の大きなブレがでてくる可能性が高くなります。一方で、評価される上司の側も必要以上に構えてしまい、たとえ評価に伴う研修やフィードバックがあろうと、部下の評価を正面から捉えようとはせず「それがどうした」と開き直ったり、逆に部下に気に入られようとするような行動に出たりといったことになってしまうのです。

 かといって、360°評価を頭ごなしに否定しても何ら問題は解決しません。まずは、こういった相互不信を解消することから始めるしかありません。若手・中堅層の経営層に対する不信感はボトムアップ型アプローチでは決して解消されません。経営者の明快な意思表明と有言実行を材料にして、「経営の意思」を社員に分ってもらうようにするしか方法はないと言えます。マネジメントが自らの変容に向けての取組みを本気になってスタートさせ、その検証手段として 360°評価を導入していくというやり方が最も効果的なのです。

 多くの会社で導入されている成果主義人事制度ですが、経営者・管理職のマネジメントの改革という論点が置き去りにされているきらいがあります。成果主義導入と引き換えにやらなければならない経営側の宿題は決して簡単なものではないのです。
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