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コラム「研究員のココロ」

―愛「させる」技術―
これからコンサルタントを目指される皆さんへ

2003年03月03日 岸田 拓士


最近、コンサルタントをしている友人Kに駅前の書店で会った。

私「また本屋か、ほんとに好きだね。立ち読みが。」

K「そうなんだ。買った本を読むより、好き勝手に目次を立ち読みするのが好きなんだ。」

私「で、何か面白い本見つけた?」

K「あったよ。「愛させる技術」っていう本。昔「愛される理由」って本があったけれど、愛「する」でも愛「される」でもないんだ。愛「させる」なんだ。これにはちょっとびっくりした。そもそもそんな技術なんかあるのか。その本は目次さえ読まなかったけれど、えらく考えさせられた。」

私「愛「させる」だから、相手の意思にかかわらず、無理にでも愛「させる」んだよね。コンサルタントだったらクライアントに愛させるってわけだ。そんな技術あるのか。」

K「こっちが聞きたいよ。って思っていたけど、自分なりに考えたんだ。それはね、理解「させる」技術と同じではないかと。一緒に暮らしたいと思う愛もあれば、相談したいと思う愛もある。その根本は「あの人なら私のことを判ってくれる」という気持ちなんだ。このことを逆から言うと、「あなたの言っていること、困っていることは、この通り、判っていますよ。」ということを理解させることなんだ。ちょっと、ややこしい話になってきたから、もうやめようか。」

私「いや、こっちも関心があるんだ。知ってのとおり、僕は数学の塾をやっているだろ。生徒に愛させるにはどうしたらいいか、考えてしまったんだよ。」

K「じゃ、続けるよ。愛させるとは、相手の気持ち、悩み、立場、不安、喜び、そういったことを理解できていることを、相手に理解させることなんだ。そのためには、理解していることを証明しなければならない。その方法は一杯ある。相手の言っていることを、日常用語に噛み砕いた一層平易な言い方で、相手に伝えること。そうしたら、相手もそうなんだって、目を輝かせるよね。もっとうまくいって、相手が自分でも表現できない悩みを、手にとるように分かり易い言葉で言い表したら、「この人は判ってくれている」と思うよね。ここが一番大事なんだ。これこそコミュニケーション能力じゃないかと思うんだ。専門的知識や発想力も大事なんだけれど、次の段階なんだと思うよ。まず、相手に愛されなくっちゃ。」

私「確かにあたってる。塾で数学を教えていても、子供たちが一番安心するのは、「ここがわからないんだろ」ってわからないことろを言い当てたときなんだ。「この先生はわからないところを教えてくれる」って。数学を習いに来る生徒たちもいろんなタイプがあるんだ。例えば、①わかっている所とわからない所を峻別できている生徒、この生徒が愛する先生は、速く正確に教えてくれる先生だ。相手に対する理解力より、専門的知識や発想力を期待しているわけだ。次に、② 理解しているつもりなんだけれど、実際には問題が解けない生徒。この生徒は、何で解けないか、どこで行き詰まったか、その生徒の思考過程を再現できる先生が好きなんだ。理解しているつもりのことを、生徒が「わかったよ」って言うまで、色々な言い替えで説明することが重要なんだ。そりゃ、表現力を試されているようなもんだよ。よく言われるけれど、概念の詰まった専門用語で表す方が、日常用語を使って比喩的に直感的に表わすより、ずっと簡単なんだ。だから、いい研究者といい教育者とは違うってことになるんだろうね。教育者は表現力がいるんだ。最後に、③数学が嫌いでカリキュラムよりずっと遅れてしまった生徒、この生徒には小さな成功を体験させることなんだ。わかっている所まで戻って、これも結構難しいんだけど、問題を一緒に解くに限るんだ。数学だって、水泳だって、ファミコンだって、ともかく「できた」という体験が必要なんだ。」

K「なんか、熱が入ってきたね。今の話を聞いていると、コンサルタントも一緒だよ。コンサルタントに相談することは、将来どうなるかってことが多いんだ。だけど、皆よくわからない。全員に共通の正解なんてないのかもしれない。それがあるなら、わざわざコンサルタントに頼まないはずだよ。それで、みんな自分の正解を求めているんだ。だから、自分の問題を判ってくれる人を求めているんだ。」

私「専門的知識や発想力も大事だけど次の段階なんだろ。じゃ、初めに必要なのは何の力だい。」

K「質問力と日常表現力じゃないかと考えているんだ。会話しながら、相手の深みを知っていく。これには、「いい質問」が必要なんだ。「いい質問」って意味も難しいけどね。アンケート票って作ったことあるかい。聞きたいことは結構出てくるけれど、何をどの順番に聞けばいいのか、どのくらいの質問数だったら回答者もイヤにならないか、そんなことを考えながら苦労することもあるよね。初対面の人に対して、これをするんだよ。相手を知るために必要な質問を瞬時に体系化し、抽象的な質問には、答え易いように選択肢まで用意する。一つのことを聞きながら、頭の中は、三つ四つ先に聞くことを確認している。勿論笑いをとるのも大事。笑ってはいけない真剣な話のときに、思わず相手も笑ってしまう、そんな笑いも大事なんだ。これには自信があるんだ。「掴み」っていうよね。そして、相手が回答すると、その回答が難しい言葉や抽象的な言葉で表現されていればいるほど、日常用語で言い換えをして「こういうことでしょ」って相手が言っていることが確実に伝わっていること、ひょっとすると相手自身が理解しているより、深く理解できていることを相手に「理解させること」。この瞬間が「愛させる」ときなんじゃないかな。そのためには、図解あり、フローチャートあり、例え話あり、専門用語あり、事例の紹介や過去の経験、読んだ話、なんでもありだ。要は、相手の直感に訴える表現が必要なんだ。こう考えると、その人の存在感って言うか、人間力にも関係してきそうだよね。でも人間力っていうのは、まだよくわからない。その人が存在するだけで発散するパワーかな、権力や権威とどう違うんだい。これは今度考えよう。」

私「いろいろグチャグチャ考えているんだね。コンサルタントって暇なのかい。他にもコンサルタントを知っているけど、みんな夜遅くまで会議したり、パソコンに向かったり、忙しそうだよ。」

K「そこが、僕のいいところさ。机の前より本屋のほうが体に力が入らずに考えられるんだ。好きな場所ほどリラックスできてひとりでに集中しているんだね。それに、モノを書くときはドトールで得意のモバイル。これに限るね。」

そろそろ子供たちの待つ塾の時間だ。子供たちに愛させる先生になれるか。少なくとも「愛される努力はしよう」と誓いながら、私は家路についた。
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