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コラム「研究員のココロ」

フランスにおける医療と福祉の連携 現地調査報告(その3/全3回)

2003年01月20日 岡元 真希子


(2回目より)
3. 福祉施設における医師のサービス

 医療セクションがあり、社会医療施設としての認可を受けている高齢者ホームは「コーディネイト医」と呼ばれる老年科医と契約しているが、この医師が入所者の診療を行うことはほとんどない。コーディネイト医の仕事は、施設の看護師や介護スタッフとのミーティング、待機者リストの中から次の入所者を判断すること、そして県保健所などとの折衝など事務仕事が中心であり、コーディネイト医が入居者の診察・健康管理もする施設は例外的である。そのような場合でも、コーディネイト医が入所者全員の健康を管理するわけではなく、遠方から転居して施設入所した場合などでかかりつけ医が見つけられないときに、申し出る程度のようである。


 そして入所者を往診して、処方箋を書くのは各入所者のかかりつけ医の仕事である。近隣から入所してくる利用者は継続してかかりつけ医を利用する。遠方からの入所者は施設の近隣の開業医から選ぶ。施設は近隣の開業医を紹介するが"契約開業医"のような存在の医師でなく、複数の中から選ぶ。ここにもフランスでは法に明文化までされて保証されている「患者の選択肢と医療の自由の尊重」の理念が感じられる。


 訪問した施設の中では、コーディネイト医と各入所者のかかりつけ医が協力体制を組んでいるという印象は受けなかった。



4. 福祉施設と医療施設の連携

 施設入所者が骨折や病状の悪化などにより医療が必要になったときは入院させるが、医療機関と福祉施設を同じ法人下にもつ企業に尋ねても、「遠くの系列病院よりも近くの病院に送る」との意見が大多数を占めた。また「利用者の選択を重視する」という声も多数聞かれた。


 しかし一方で「老人医療は利益が薄いので若年者の急性期病院を展開している。老人医療や慢性疾患は公立病院の得意とする分野」との意見もあった。戦略的な意味で、患者の囲い込みという複合化ではなく、利益のある部分のみを提供し、利益の薄い部分は公的セクターに任せるという姿勢もうかがえた。


 病状の安定しない高齢者では入退院を繰り返すケースもあると考えられるが、福祉施設と医療機関との間で利用者情報を共有化するということには積極的ではない。施設入所者が病院に入院するときは「カルテをコピーして送り状とする」ことがほとんどだが、施設のコーディネイト医が作成する場合と、看護師レベルで作成する場合とがある。


 医療機関と福祉施設との連携という点では、あまり目新しい工夫は見られなかった。また同じ法人の系列下の福祉施設であっても、他の施設と積極的に連携をとっているという話は聞かれなかった。



5. まとめ

 フランスは医療機関・福祉施設の運営主体として、公的、民間非営利、民間営利があるが、公的セクターの占める割合が高い。高齢者施設の中には、医療セクションを設けている施設もあるが、施設の医療化は公的施設のほうが進んでいる。民間で医療・看護サービスを提供していない施設では、利用者が疾病保険の訪問看護サービスをほとんど自己負担なしの出来高払いで利用している。しかし政府は社会保障費用の抑制のため、施設入所者の看護については施設が責任を持つように協約を締結する方針に転換した。社会保障機関は施設に包括で費用を支払い、施設内部で看護サービスまで提供するというものである。


 また医療セクションのある福祉施設においては、施設の顧問医と入所者のかかりつけ医とが別々にいる。施設入所者が医療機関に入院する際にも、連続的なケアをおこなうために特別な手法をとっているともみられなかった。施設担当者は利用者の意見を尊重しながら、施設で管理しているカルテやケア記録のコピーをとって患者とともに送るという程度である。施設選択の際に、系列の施設や提携している施設などを戦略的に選ぶということでもないようだ。


 訪問先で印象に残ったのは、医師や看護師だけでなく、施設長や会社の社長に至っても「協力や連携には消極的」であるという姿勢であった。「フランス人は個性が強く、個人で力を発揮するのが得意だ。逆に、他の施設や事業者と協力するのはむずかしい」「当施設は富裕層を対象として市街地に展開する高齢者ホームである。グループ施設に郊外型施設があるが、利用者が希望しないこともあり紹介したことはほとんどない」「系列の施設が近くにあるらしいが施設長の顔も知らない」「系列の傘下に入っても施設長の自律性は尊重される」(以上ヒアリングより)


 今後、医療と福祉の連携をすすめていくにあたって、フランスでは制度上や財政上の制約よりもむしろこのような国民性のほうが障壁になってくるのかもしれないと感じた。

以上

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