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コラム「研究員のココロ」

フランスにおける医療と福祉の連携 現地調査報告(その2/全3回)

2003年01月13日 岡元 真希子


(1回目より)

2. 福祉施設における看護サービス

 訪問した施設の中には、医療セクションを設けている(注:入所者に医療を提供できるよう看護師の配置、顧問医の契約などのための予算を得ているということ。ハード面の整備要件ではない)施設は少なかった。例えば、開設当初は比較的自立度が高い高齢者を受け入れており、看護師による医療的なサービスを整備する必要はなかったが、年月を経るにつれて入所者の高齢化、要介護化が進んできたケースなどが多い。しかし施設では看護師によるサービスを提供している。その方法は、施設に看護師を配置するのではなく、入所者の一人一人がそれぞれ訪問看護師のサービスを発注し、利用するという方法である。


 訪問看護サービスは疾病保険の償還を受けられる医療サービスであり、利用者の自己負担はほとんどない。施設にとってもコストの高い看護師を雇って入居料金を上げる必要がなく、利用者も少ない自己負担で利用することができる。しかし疾病保険や国家の社会保障費という点からすると、利用者と施設による費用の「二重取り」はコスト高になる。また疾病保険の訪問看護は出来高制のため、過度の利用につながるおそれもある。


 このため、2003年末を期限として、25床以上の要介護高齢者入所施設は、介護費用を担当する県の部局、医療費用を担当する県保健局との間で三者協約を締結することが法律で定められた。これによって施設入所者への看護サービスは疾病保険の出来高払いから、包括払いに代わり、施設入所者への看護サービスは施設の責任となる。現在のように訪問看護師を利用しつづけると、施設は疾病保険から総枠予算で一定額を受け取る一方で、訪問看護師からは出来高分だけ請求されることになり、赤字となる可能性がでてくる。このため三者協約後は、結果的に看護師を施設内で雇用することになると言われている。ただしこの協約は従来外部の訪問看護師を利用してきた施設にとっては財政的に苦しくなるため、進んで協約を締結しようとする施設が少なく、期限までに該当施設の協約締結は間に合わない見込みである。

図表 改革前後での費用構造の変化
(現状)



(改革後)



 日本でイメージしてみると、現在のフランスの高齢者ホームは提携している訪問看護ステーションに自分で契約してサービスを利用できるが家賃が比較的手ごろな「高齢者住宅」に近いといえる。このような施設が、有料老人ホームに変わって家賃に介護費が含まれるようになる、という感じだろうか。多様な高齢者の住まい方が注目され「介護つき住宅」の類が増えつつある日本だが、フランスはこれとは逆行するような動きである。日本では介護保険に給付限度額と利用者の 1割自己負担があるが、フランスの疾病保険による訪問看護は利用上限がなく、出来高払いである上に、疾病保険と補足制度(注:患者自己負担分をカバーするために加入している共済、民間保険など。フランスでは補足制度の加入率が非常に高いため、「医療は無料」という印象を持っている人が多い)によってほとんど自己負担なく利用できるため、過剰利用につながりやすいというのが大きな違いであろう。外部化/内部化という点では、日本とフランスは逆行するようにも見えるが、費用の包括化という点では類似しているといえる。

第3回目につづく
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